シュトックハウゼン:ヴィブラ=エルーファ VIBRA-ELUFA(2003)楽曲解説

シュトックハウゼンのオペラ『光の金曜日 FREITAG aus LICHT』(1991-94)の主人公は、ルツィファーとエーファである。悪魔ルツィファーがエーファ(エヴァ)を誘惑するという、旧約聖書のエデンの園のエピソードから発想したと思われる、しかし聖書とは全く無関係なストーリーでオペラは展開してゆく。ソプラノ歌手が演じるエーファの、二人の侍女の名はELUとLUFAである。ELUはバセットホルン奏者、LUFAはフルート奏者が担当し、オペラの登場人物としてステージ上で動き回りながら演奏をする。この二人の名前は、E-Lu, Lu-Faと分解してみれば明らかなように、エーファ(Eva = Efa)とルツィファー(Luzifer)から採られている。オペラの幕切れ近くで、ELUとLUFAによって演奏される二重奏のタイトルは、二人の名前を合成した『エルーファ ELUFA』であり、それを独立したヴィブラフォン作品に編曲したものが『ヴィブラ=エルーファ VIBRA-ELUFA』である。
ELUFAで特徴的なのが、微分音による擬似グリッサンドを伴って波のように上下する音形だ。VIBRA-ELUFAでは、これが全音階や半音階のグリッサンドに置き換えられ、しばしばペダルによる残響音が付加されることによって、ヴィブラフォンならではの美しさが表現される。

上野信一打楽器リサイタル(2016/12/19)のために執筆したプログラムノートより転載