LICHT全曲は、オペラの主要キャラクターであるミヒャエル、エーファ、ルツィファーを象徴する3声のフォルメルからなる演奏時間1分ほどのズーパーフォルメル Superformel から構成されている。
各フォルメルの基本構造は核セリーによって決定される(譜例1)。
核セリーの各音(核音と呼ぶことにする)に持続を割り当て、核部分を構成(譜例2)。
36音の核音のすべては、36の異なる方法で装飾されるが、フォルメルによって装飾付けられるパラメーターの種類が異なる。
M | 強度、音色 |
E | メロディー、音色 |
L | リズム、音色 |
装飾の具体的な方法は以下の通り。
1 |
変化なし |
2 |
中央にグリッサンド |
3 |
Einschwing(ターン)による開始 |
4 |
中央にTiefsprung(下行跳躍) |
5 | Schleifer(滑走音) |
6 | ヨーデル |
7 | プラルトリラー |
8 | 半音階滑走による開始 |
9 | 鳥の音形 |
1 | 変化なし |
2 |
冒頭に規則的な反復→持続 |
3 |
持続→結尾に規則的な反復 |
4 |
持続→中心で規則的な反復→持続 |
5 |
単音の規則的な反復 |
6 |
リズム細胞の規則的な反復 |
7 |
単音のリタルダンドしながらの反復 |
8 |
単音の不規則な反復 |
1 | 変化なし |
2 |
冒頭に単音のアクセント |
3 |
結尾に単音のアクセント |
4 |
持続の中央にアクセント |
5 |
cresc.→dim. |
6 |
cresc.→dim.の繰り返し |
7 |
強度変化によるrit. |
8 |
強度変化によるaccel. |
9 |
強度の波状変化 |
10 |
強度の階段状の変化 |
1 |
iuiuiuiu |
急速な交替 | E |
2 |
iu——– |
冒頭のみ明 | L |
3 |
u——–i |
結尾のみ明 | M |
4 |
u—iu— |
中心のみ明 | M |
5 |
u—a—i |
暗→明 | L |
6 |
i-a-u-i-a-u- |
音色の規則的な変化 |
E |
7 |
i–u e–u a–u o–u |
M | |
8 |
i—u–ei—ao—i |
音色の波状変化 |
E |
9 |
不規則な音色変化 |
L |
計36(=9+8+10+9)タイプの装飾
この核部分(核音+休止)が、5種類の「アクシデント」(変奏、エコー、音階、変調、風)、「彩られた休止」によって注釈付けられ、音楽的な変化がもたらされる。下の譜例はミヒャエル・フォルメルの月曜日の部分(cf. 譜例1、2。丸で囲んだ数字は上記、強度のタイプの割り当て)。注釈部分では、特殊奏法による様々なノイズが使用される。
各要素の持続(単位は4分音符)は以下のとおり。
Superformelは12種類のテンポを内包している。中心テンポの60から少しずつ波打つように変化、その振幅が木曜日の部分で最大になった後は再び60へと収束。
これらすべての要素を重ね合わせ、ズーパーフォルメルが完成する(譜例4)。1分間に詰め込まれた膨大な情報量は、7つのオペラ全体の設計図となることを考えると、全く過大ではない。ちなみにミヒャエル・フォルメルはトランペット、エーファはバセットホルン、ルツィファーはトロンボーンで演奏することが想定され、特殊奏法はそれぞれの楽器を前提としたものとなっている。これが、実際の作品に適用される場合は、その場面で使用される楽器や声の特性を考慮して特殊奏法が「翻訳」される。
このSuperformelを使って、実際の楽曲がどのように作曲されているかは、『ヘリコプター弦楽四重奏曲』の分析を参照のこと。作品ごとにフォルメルの適用の仕方は大きく異なるが、この作品はその方法がシンプルなので概要を知るには最適。
リンク:シュトックハウゼン公式ページ