Superformelの分析

LICHT全曲は、オペラの主要キャラクターであるミヒャエル、エーファ、ルツィファーを象徴する3声のフォルメルからなる演奏時間1分ほどのズーパーフォルメル Superformel から構成されている。
各フォルメルの基本構造は核セリーによって決定される(譜例1)。

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譜例1:1977年10月京都でのスケッチより再構成 ©Stockhausen Foundation for music, Kuerten, Germany

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核セリーの各音(核音と呼ぶことにする)に持続を割り当て、核部分を構成(譜例2)。

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譜例2;1978年3月22日のスケッチより再構成 ©Stockhausen Foundation for music, Kuerten, Germany

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36音の核音のすべては、36の異なる方法で装飾されるが、フォルメルによって装飾付けられるパラメーターの種類が異なる。

M 強度、音色
E メロディー、音色
L リズム、音色

装飾の具体的な方法は以下の通り。

メロディーのタイプ(エーファ)
1

変化なし

2

中央にグリッサンド

3

Einschwing(ターン)による開始

4

中央にTiefsprung(下行跳躍)

5 Schleifer(滑走音)
6 ヨーデル
7 プラルトリラー
8 半音階滑走による開始
9 鳥の音形
リズムのタイプ(ルツィファー)
1 変化なし
2

冒頭に規則的な反復→持続

3

持続→結尾に規則的な反復

4

持続→中心で規則的な反復→持続

5

単音の規則的な反復

6

リズム細胞の規則的な反復

7

単音のリタルダンドしながらの反復

8

単音の不規則な反復

強度のタイプ(ミヒャエル)
1 変化なし
2

冒頭に単音のアクセント

3

結尾に単音のアクセント

4

持続の中央にアクセント

5

cresc.→dim.

6

cresc.→dim.の繰り返し

7

強度変化によるrit.

8

強度変化によるaccel.

9

強度の波状変化

10

強度の階段状の変化

音色のタイプ
1

iuiuiuiu

急速な交替 E
2

iu——–

 冒頭のみ明 L
3

u——–i

 結尾のみ明 M
4

u—iu—

中心のみ明 M
5

u—a—i

暗→明 L
6

i-a-u-i-a-u-

音色の規則的な変化

E
7

i–u e–u a–u o–u

M
8

i—u–ei—ao—i

音色の波状変化

E
9

不規則な音色変化

L

計36(=9+8+10+9)タイプの装飾

この核部分(核音+休止)が、5種類の「アクシデント」(変奏、エコー、音階、変調、風)、「彩られた休止」によって注釈付けられ、音楽的な変化がもたらされる。下の譜例はミヒャエル・フォルメルの月曜日の部分(cf. 譜例1、2。丸で囲んだ数字は上記、強度のタイプの割り当て)。注釈部分では、特殊奏法による様々なノイズが使用される。

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譜例3 ©Stockhausen Foundation for music, Kuerten, Germany

各要素の持続(単位は4分音符)は以下のとおり。

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Superformelは12種類のテンポを内包している。中心テンポの60から少しずつ波打つように変化、その振幅が木曜日の部分で最大になった後は再び60へと収束。

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これらすべての要素を重ね合わせ、ズーパーフォルメルが完成する(譜例4)。1分間に詰め込まれた膨大な情報量は、7つのオペラ全体の設計図となることを考えると、全く過大ではない。ちなみにミヒャエル・フォルメルはトランペット、エーファはバセットホルン、ルツィファーはトロンボーンで演奏することが想定され、特殊奏法はそれぞれの楽器を前提としたものとなっている。これが、実際の作品に適用される場合は、その場面で使用される楽器や声の特性を考慮して特殊奏法が「翻訳」される。

Stockhausen - Superformel fur Licht

譜例4:『光』のズーパーフォルメル完成形 ©Stockhausen Foundation for music, Kuerten, Germany

このSuperformelを使って、実際の楽曲がどのように作曲されているかは、『ヘリコプター弦楽四重奏曲』の分析を参照のこと。作品ごとにフォルメルの適用の仕方は大きく異なるが、この作品はその方法がシンプルなので概要を知るには最適。

リンク:シュトックハウゼン公式ページ