『シュティムング』の楽曲構造

概要
1968年2〜3月に作曲。
6人の歌手のための作品。
全曲はB1第2、3,4、5、7、9倍音のみが使用される(基音は使用されない)。

stimmungharmony
全曲が倍音唱法で歌われることによって、この6つの音のさらなる倍音が「メロディー」として認識される。

この作品は51のセクションから構成され、それぞれのセクションで特定の「モデル」(後述)が演奏される。

和音構成音数の推移

6×6の基本構造

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上記のセリーは同じ数字の後に違う数字が来るように構成されている。
例えば、3とその後続数を抜き出すと以下のようになっている。
36-34-31-35-33-32

(なお、このルールを守るため5行目に「3」の重複、6行目に3の欠損が生じている)
また、セリーの各行の最後と後続する行の始めの数字は
一つの例外を除き同じになっている。

1音のユニゾンによる6つの部分(赤字)が含むセクション数
1 3 6 4 5 2

2音以上の構成音を持つ部分はそれぞれが1つのセクションになる。

これらをふまえると、セクションごとの構成音数は以下のようになる。

1 3 6 4 5 2
2 1 1 1 6 5 3 4
4 2 3 1 1 1 1 1 1 5 6
6 1 1 1 1 2 4 3 5
5 1 1 1 1 1 4 6 3 3 2
6 2 5 4 1 1

全曲のセクション数は以下の通りとなる。

1音(ユニゾン):21(=1+2+3+4+5+6)セクション
2〜6音:各6セクション
計:51セクション(=21+5×6)

各セクションで、誰が歌うかを決定。
構成音2音の6つのセクション各々のモデル歌手(そのセクションの中心となる歌手)は、6人の歌手がそれぞれ担当。3音以上のセクションも同様(赤がモデル歌手)。

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2〜6音のセクションでは、歌手が歌うピッチは固定されている。すなわち
B: 第2倍音 T2: 第3倍音 T1: 第4倍音 A: 第5倍音 S2: 第7倍音 S1: 第9倍音

それぞれの構成音数で、最高音と最低音の音程差ができるだけ多様になるように計画されている。

ユニゾンで歌われる21のセクションの、歌われる倍音ごとのセクション数を以下の通り決定。
第2倍音: 2 第3倍音: 3 第4倍音: 4 第5倍音: 5 第7倍音: 4 第9倍音: 3
(中央のピッチの方が多くの歌手の音域にフィットするので、割り当て数が多くなっている)
同じピッチのセクション間でモデル歌手、演奏する歌手の人数のそれぞれが重複のないように決定。

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このようにして決まった、各セクションの構造を、前述の51のセクションの全体構成に割り当てる。
ユニゾンのセクションのそれぞれのまとまり、そこに挟まれた複数音のセクションのまとまりごとに、できるだけ中心となるピッチの重複がないように割り当て。

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各モデルのリズム構造

モデル:セクションごとに繰り返し歌われる、倍音列による短いメロディーのパターン(単一のモデル内で基音は変わらない)。
51のセクションに51の異なるモデルが割り当てられる(割り当て方は演奏者が決定)。
51のモデルすべては、異なったリズム構造を持っている。

ある波形の繰り返しである「音高」が低くなり可聴域を下回ると、「リズム」として認識される。
つまり「音高」と「リズム」は同一であるとみなせる。

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B1音の6つの倍音列のみを使うピッチ構造に対応し、「テンポ3(=周期20秒)」の第2、3、4、5、7、9倍音のテンポである6、9、12、15、21、27を基本テンポとし、それぞれの1〜9倍音にあたるテンポの系列を作成、そこから微調整*を行うことにより51のテンポ群を形成(=6×9-3)。
*表中の黒いテンポは省略、黄色と黄緑のテンポは一つのモデルに統合することによって、モデル数を3減らす。

第2倍音の系列のモデルは2拍、第3倍音の系列は3拍etc.

各拍の分割は表の通り。拍子数が多いほど分割数が少なくなる。
リズムの文節も、倍音構造に対応する。

以下の譜例は6つの基本テンポを持つモデルのリズム構造。拍子全体が「テンポ3=周期20秒」となっている。

stimmungmodel

6つの基本テンポのモデルの一部分は無声音で演奏され(母音によって無声音のピッチが変化する)、「母音」を中心としたこの作品にノイズ成分が取り入れられる。

モデルの演奏

各セクションでは必ず誰かがモデル歌手となって、割り当てられたモデルを歌う。他の歌手の関わり方は以下の通り。

・リズム、パターンをシンクロさせる。
・はじめは前セクションのパターンを歌い、徐々に現在のパターンへと変化させる。
・前セクションのパターンをそのまま演奏し続ける。
・歌われているピッチの任意のものを重ねて歌い、ピッチ、音色などをわずかにずらし、再び戻る。

いくつかのセクションでは「マジック・ネーム」(世界中から集められた神の名前)が呼ばれる。この時、モデル歌手、及び彼とシンクロして歌っている歌手はその名前の発音がモデルと統合される。

モデルごとにテンポ、リズム構造が異なるので、複数のモデルが同時演奏される状況になると、必然的にポリリズム構造が生まれる。

特殊なイヴェント

4つのモデルで(シュトックハウゼン自作の)詩が朗読される。
7つのモデルで曜日の名前がモデルに取り込まれる。

#「7つの曜日」のモチーフは、STIMMUNGの数ヶ月後に作曲された、直観音楽集『7つの日より』のタイトルに直結するだけでなく、7つの曜日を7つのオペラで音楽化する『光 LICHT』(1977-2003)の遠い先駆けともなっている。逆にLICHTの中にはSTIMMUNGのエコーと解釈できる場面がいくつか存在する。

・『光の水曜日』第4場面「MICHAELION」の幕切れ間近の6重唱「Menschen hört」
・『光の日曜日』第4場面「DÜFTE-ZEICHEN」の終盤での、6人の歌手による倍音唱法