『ピアノ曲III KLAVIERSTÜCK III』(1952)は、19曲あるシュトックハウゼンの『ピアノ曲』のシリーズの最も初めに書かれ、なおかつ最も短い作品(全16小節)。
この作品の全ピッチ構造は4組のピッチ・セットから導き出される。各ピッチ・セットは3つのピッチで構成される(譜例1)。
A,Bは冒頭小節のピッチ構造に由来する(譜例2、1小節目)。C,Dはこのピッチ構造を読み替えることで得られる(同2小節目)。
譜例2は『ピアノ曲III』の全ピッチ構造をまとめたものである。音の出現順序、オクターヴは原曲どおり。小節線は楽曲構造を把握しやすいように書き換えてある。(以下の分析の小節数は原曲ではなく、譜例の小節数であることに注意)
1〜2小節目でA,B,Cが呈示されるが、それぞれのピッチ・セットはp, mf, fという統一された強度で演奏される(○で囲んだ強度は連桁で繋がった全音符に有効であることを意味する)。ちなみに、この作品に表れる強度は基本的にこの3種類のみ、最終音のみ例外的にffが現われる。
3小節目で演奏される3つのピッチ・セットでは各音に異なる強度が割り当てられる(常に最低音からみてf-p-mfとなっている)。ちなみに和音で表わされているところはアタックは同時でも、例外なく各音の音価が異なっているので音の切りはずれることになる。小節最後の音符から延びるタイは、そのピッチが3音目の切りまで延ばされることを意味する。つまりここでは、入りはずれるが切りが同時になることとなる。
4小節目では、再び各ピッチ・セットが統一した強度で演奏される(実際には異なる強度が混じっている部分があるが、演奏効果を考えて強度の調整が施されたと解釈した)。5小節目では3組のセットが入り組んだ状態で演奏されるが、同じセットは同じ強度で演奏される。5小節目はA,Cが十字架状に組み合わされる。各音の強度も十字架状のシンメトリーになっている(図)。
6小節目以降では複数のセットが重ね合わされる。3音中2音が同じ強度になっている。7小節目の2つのAでは、再び各音に異なる強度が割り当てられる。
各ピッチ・セットで3つのピッチができるだけ多様な音価を持つように設計されている。特に3〜4小節目では、3つの音の重なりあいの様々な可能性が呈示される。
各ピッチセットの出現頻度は以下のとおり。
A: 7回、B: 5回、C: 4回、D: 4回
合計で20個のピッチセットが呈示されることになるので、合計60音。ただし、後半で複数のセットで共有される音があるので実際の音数は55音。
3音からなるピッチセットに3種類の強度。タイトルである『ピアノ曲III』の「3」との連関を邪推したくなるが、当初は『ピアノ曲III, II, I』は『ピアノ曲A, B, C』(このネーミングは作曲順を反映している)と呼ばれていたので、これは単なる偶然にすぎない。