『ピアノ曲I』分析

1952年に作曲。

あらゆる要素が「6」のセリーで構成される。

作品の全体構造は36(=6×6)のセクションから成り、各セクションは4分音符1〜6個分の音価を持つ。
36の各セクションの音価は以下のとおり(楽曲内では若干の例外的処理が存在する)。

523146
365421
264315
416253
651432
135246

セクションごとに音価の分割方法が異なるが、例えば第1セクションでは5拍が11等分、第2セクションでは2拍が5等分されるなど、しばしば複雑な連符を必要とするため、セクションごとにテンポ感が変化するような効果を生む。

ピッチに関しては、c-f、fis-hの6音のセリーが交互に使用される。各セリーは36回ずつ現われる。
6つのピッチを数字に置き換え、冒頭のいくつかのセリーを書き出すと以下のようになる。

346215
321546
213654
516243

などと、毎回セリーの順序が置換される。
12音技法では反行形、逆行形など古典的なモチーフによる楽曲統一の名残があったが、ここではあらゆる要素を均等に、なおかつ多様に呈示するためにセリーが自在に置換される。

強度はpp-p-mf-f-ff-fffの6種類が使用され、これもセリエルに呈示される。
6つの強度を数字に置き換えると、冒頭部分は以下のようになる。

162354
436125
314652

強度とピッチの関係は1対1の場合もあれば、複数のピッチにわたって同一の強度が適用される場合もある。
和音の各音の強度が異なり、同時に6つの強度を含む場合すら存在する。
なお、強度に関しては、おそらく音域ごとの楽器の鳴り方の違いなどを考慮して、セリーから導き出されたものから「調整」を行っていると思われる。以下の譜例は、冒頭部分のピッチと強度の構造。強度に関しては、セリー構造が分かりやすいように、細かな「逸脱」部分は割愛してある。

piano1begin

全体の分析はこちらのpdfファイルを参照のこと(2つの和音をひと括りにしている部分は、それらが1つの和音として同時に演奏されることを示す)。

作品全体を見ると、「点」と「群」という2つの状態の揺れ動きが感じられる。
音ごとに強度、持続が更新されると、1音1音のキャラクターの多様性が強調されるので「点」として感じられ、複数の音が、同じ音価、同じ強度を共有、あるいは特徴的な音域変化を伴うことによって(上昇、下降etc.)、それらがひとまとまりの「群」として認識される。