シュトックハウゼン:KLANG7〜12時間目分析

時間目の5つのセクションの演奏順を置換、様々な編成の三重奏で演奏(表1、2、3)。楽器編成の選択もシステマティックに計画されている。各セクションの楽譜は基本的に同一なので、各曲のコントラストではなく類似性が強調される。しばしばセクション間に挿入部が挟まれる(表4)。

表1:各曲の曲名と楽器編成

表1:各曲の曲名と楽器編成

*GLANZでは挿入句に [ob] – [tp / tb] – [tuba] が加わる

 

表2:5種類のカラーを持つ楽器

表2:5種類のカラーを持つ楽器

*ソプラノ・サックスはダブルリードの楽器ではないが、オーボエと類似した響きを持つ。ソプラノ・サックスと電子音楽のための20時間目《EDENTIA》は、初期のスケッチでオーボエが想定されていたことも注記しておきたい。

低音域(ob2, cl3, vn2)
中音域(ob2, cl1, vn2, tp2)
高音域(ob2, cl2, vn1, fl2)

同属楽器:8(ダブルリード),9(弦楽器),11(クラリネット属)、他の作品はその混合

 

表3:セクションの演奏順

表3:セクションの演奏順

逆行の関係:6⇔7 8⇔9 11⇔12(わずかに差異有)
10=6(ただし10は大規模な挿入部を伴い、大幅に拡大)

 

表4:挿入部の配置

表4:挿入部の配置

(同じ文字でも色が異なるものは異なる音楽)

 

表5:挿入部の楽想の参照元

表5:挿入部の楽想の参照元

凡例)
I-1 セクションIの第1サブ・セクション
II[4,1] セクションIIの2つのサブセクションが同時に演奏されることを表す。

 

 

表6
文字色が楽器を表す(後半の色の変化に注意)
数字は4分音符を単位とする音価、冒頭1拍のみ演奏、あとは休止
トリル部分のみ音価いっぱい演奏
背景色:黄色=トリル、グレー=休止、紫=トゥッティ
数字の下の点線:最後のトゥッティまで音を持続させる(和音が一音一音増えていく)

 

introなどで語られる言葉:

6: LOB SEI GOTT
(神に讃美あれ)
7: Gloria in excelsis Deo et in terra pax hominibus bonae voluntatis
(天のいと高き所には神に栄光、地には善意の人に平安あれ)
8: Noten zu Klängen zu Kreislauf zu Glück / GOTT ist Glück
(楽譜から音へ、円環へ、至福へ/神とは至福)
9: DANK SEI GOTT / DANKE GOTT FÜR DAS WERK HOFFNUNG
(神に感謝あれ/神よ、この作品《HOFFNUNG 希望》に感謝)
10: Gloria in excelsis Deo / et in terra pax hominibus bonae voluntatis
(天のいと高き所には神に栄光、地には善意の人に平安あれ)
11: TREUE ZU GOTT
(神への忠誠)
12: ERWACHEN IN GOTT
(神の中での目覚め)

6時間目:5時間目のサブ・セクションの順序を置換し、三重奏に拡大
7〜12時間目:6時間目の(メイン)セクションの順序を置換し楽器編成を変化

類似した楽想の連続的な提示は、《グルッペン》や《カレ》などの演奏至難な作品を一晩の演奏会で複数回演奏したことに始まる。複雑な作品を複数回演奏することによって聴衆の理解を深め、演奏者の負担の軽減、およびそれに伴う演奏精度の向上も狙っている。《ピアノ曲XI》など、ひとつの楽譜から様々なヴァージョンが現れうる作品では、複数回の演奏が、作品の不確定性による多様性を顕にしつつ、作品の構造にさりげなく親しむことも狙っている。
《光の日曜日》の最終場面《HOCH-ZEITEN》では同じ楽譜に基づく合唱による版とオーケストラによる版が2つのホールで同期しながら同時に演奏され、2度目の演奏では、聴衆または演奏者がホールを交代する。さらに幕切れ後にロビーなどで演奏される《日曜日の別れ》では、この作品の5台のシンセサイザーによるヴァージョン(但し、いくつかの挿入部分は割愛)が演奏されるので、同じ作品の楽器だけを入れ替えたヴァージョンを3つ連続で聴くことになる。
5〜12時間目の類縁性は、こうした傾向が高度に洗練されたものであるといえる。