KLANG5時間目『ハーモニー』分析

2006年5〜6月に作曲。
バス・クラリネット、フルート、トランペットのための3種類の版がある。
楽器法の都合などによる細部の違いはあるが、基本的には同一の作品。

《KLANG》全曲の基礎となる「24音セリー」の反行形の終わりに冒頭の1音を加えた、25音(=5×5)のセリー(譜例1)を本作のピッチの基本素材として使用。

譜例1

譜例1

全体は5つのセクションに分かれ、セクションごとに異なる移高形でこの25音セリーが呈示される。譜例2は5つのセクションのセリーの開始音。24音セリーの原形の第5〜9音が使われている。冒頭の4音は序奏としてフェルマータで演奏される音。

譜例2

譜例2

5つの各セクションはさらに5つのサブ・セクションに分かれ( 5×5の25部分からなる構造)、それぞれ3〜7個のピッチを持つ。各セクションのピッチ数は3+4+5+6+7=25となる(表1)。
各セクションでメロディーが低音域から高音域へ上昇、そして再び低音域へ戻るように計画(譜例1)。

25の各部分のテンポは第1セクションで提示されるセリーをテンポの半音階に置き換えたもの(表3。17〜21音目のテンポは譜例1の対応するピッチから「1オクターヴ低いテンポ」に変更されている)。

ゆっくりしたテンポから急速なテンポへ加速し、またゆっくりとしたテンポへ戻るようにテンポのオクターヴを計画。

各サブ・セクションでは、セリーが旋律的に演奏されたあと、急速なアルペッジョの繰り返しで同じピッチ群が繰り返され、和声的な印象をあたえる(作曲者は「リトルネッロ」と呼んでいる)。
この繰り返しの回数はフィボナッチ数列の5種類の数値から定められる(表2)。
繰り返しの間に、休止、テンポ、奏法、音域の変化も伴う。
旋律的に演奏される部分のリズム構造は、1時間目《HIMMELFAHRT 昇天》で使用された「リズム・ファミリー5」から転用(注)。

後半の2箇所に、対照的な挿入句が置かれる。
・IV-4のあとに最低音域による挿入部(テンポ30)
・V-3のあとには最高音域による挿入部(セリーの25音が一気に演奏される)

はじめにバス・クラリネット版を作曲。
フルート版は長2度上に移高(およびオクターヴの変更)、短いコーダを追加
トランペット版ではさらに、冒頭の4音のフェルマータの間の3箇所の休止で「LOB SEI GOTT(神に讃美あれ)」と喋る部分を追加。

(HARMONIENバス・クラリネット版の出版譜に、以上のアナリーゼの大半が記されているスケッチが掲載)

表1

表1 メロディーの構成音数

はじめは3→7(増加)、最後は7→3(減少)
7の位置ががだんだん前に

 

表2:リトルネッロのアルペッジョの繰り返し回数

表2:リトルネッロのアルペッジョの繰り返し回数

IとVは同一(減少)
II:Iの1、3個目を置換
III:Iの1、5個目を置換
IV:IIの5個目を3個目に移動

各セクションの冒頭:21-8-3-8-21(シンメトリー)
2個目は必ず13回
セクションの最後は、第3部をのぞき少なめの回数(3 or 5)
メロディーの構成音数とリトルネッロの繰り返し回数の組み合わせが重ならないように配慮されている。

 

表3

表3:各部分のテンポ

I-2は本来ならば53.5であるべきだが、63.5に変更することにより、冒頭と結尾の2つのテンポがシンメトリックな関係になっている。

 

注) リズム・ファミリー
・16分音符24個分の音価(=付点全音符)を12通りに分割した音価群を得る(表4)。

・これを12のグループに適宜割り振る(この操作は感覚的)
(上段の数字はリズム・ファミリー内のグループの番号、それぞれのグループが持つ音価群は表を縦に読む)

・それぞれのグループの音価を順序を自由に並び替える。
(このようなリズムの集合体を12種類作ったが、HARMONIENではそのうちの第5ファミリーのみを使用。詳細は2006年度シュトックハウゼン講習会のテキストへ。)
・「リズム・ファミリー5」では、16分音符5個分の音価を4個、4分音符を1個含むリズム(合計すると16分音符24個分となる)を8セットつくり以下の5つのグループの結尾に挿入句として加える。
グループ1、グループ3、グループ6(2個)、グループ8、グループ12(3個)

・本作ではこのリズムの音価を2倍にしたものを、グループ12からグループ1へ逆行で読み、各ピッチに当てはめている(一部例外的な処理もあり)。

表4

表4

例)
24×1:16分音符1個分の音価が24個
8×3:16分音符3個分(=付点8分音符)の音価が8個
4×5+4:16分音符5個分の音価が5個と16分音符4個分の音価(=4分音符)が一つ
3×7+3:16分音符7個分の音価が3個、内1つの音価には16分音符3個分の音価を加える。