フォルメル技法の概要

1. フォルメル技法の概観

点の音楽、群の音楽、モメント形式、即興演奏時代に続くシュトックハウゼンの1970年以降の作曲技法。

車の中でMANTRAのフォルメルを思いつき封筒に書き記す。
KREUZSPIEL(1951)の直後に作曲されたもののお蔵入りになっていたFORMEL(1951)において、すでにフォルメル技法を予感していたことを再発見。
一つの旋律素材が作品の全体構造を規定→部分と全体の一貫性。
初期から、全体構造を楽曲の細部に反映させる試みは行われていた(form scheme)。

セリー=両極端の値(高↔低、短↔長etc.)を媒介する
シュトックハウゼンはしばしば具体と抽象をセリーで媒介。
母音↔子音(少年の歌)、楽器音↔電子音(コンタクテ、ミクストゥールetc.)、世界の音楽や国家・短波ラジオ↔電子音楽(テレムジーク、ヒュムネン、短波etc.)
直観音楽では意識の様々なレベル(例:原子のリズム↔宇宙のリズム)を媒介。
不可視なセリー(遺伝子)→容易に聴き取れるフォルメル(生物、はなうた)

2. MANTRA(1970)

13音のセリーの各音に割り当てられたキャラクター(繰り返し、付点etc.)が13×12部分からなる作品全体の構成へ反映。
13の部分の中心音(リング変調機のサイン波の周波数、フォルメルの開始音)はセリーの各音のピッチに対応。
フォルメルが垂直(12段階)、水平方向(7段階)の双方に拡大、縮小する(SPIRALなどの作品との関わり)。

3. INORI(1973-74)

フォルメル自体がform schemeとして使用される。
60拍からなるフォルメルのリズムのプロポーションが60分の全体構成のプロポーションに反映。
半音階の12音にテンポの半音階の12のテンポ、12のジェスチャー12の強度(60段階)、12の音色が対応。
エコー、ポーズというフォルメルに含まれた特別な要素による音色、テクスチュアの変化。
全曲を通じて、単音の状態のフォルメルに順次、リズム、強度、メロディー、和声、ポリフォニーという属性が付け加えられていく。

フォルメルとジェスチャーの厳密な関係。
ピッチ=(手の)上下、音価=中心~外、強度=前後、音色=祈りの手の形、エコー、ポーズ=特別なジェスチャー

4. TIERKREIS(1974/75), SIRIUS(1975-77)

12の星座が12のメロディーの12の中心音、12のテンポ(ピッチ、テンポの半音階)に対応。

水瓶座 es 56.5
魚座  e 67
牡羊座 f 60
牡牛座 fis 90
双子座 g 101
蟹座  gis 75.5
獅子座 a 107
乙女座 b 80
天秤座 h 71
蠍座  c 95
射手座 des 85
山羊座 d 63.5

それぞれのメロディーは12音のセリーから構成される。
SIRIUSでは四季を代表する4つの星座の密度の関係が季節の推移に応じて変化。

5. IN FREUNDSCHAFT(1977)

同一セリーから作られた、全てにおいて逆の特性(音域、音価、強度、正行逆行)を持つ2つのメロディーを組み合わせた2重フォルメルを基礎とする。
このフォルメルは全体としては両者の音域が近づくように構想されているが、7回のフォルメルの提示の間に、両者の要素が少しずつ交替され、音域も徐々に近づいていく。
構造とジェスチャーの関係。
旋律楽器によるポリフォニーの実現。

6. LICHT(1977-2003)

3人の主要キャラクターであるミヒャエル、エーファ、ルツィファーを音楽化した3声のズーパーフォルメルが7つのオペラの構造(中心音、持続時間など)を決定。12のテンポの半音階を網羅する演奏時間約1分のフォルメルは、60拍からなり、テンポ60の状態で1分が実際の作品の16分に相当する。半音階で構成されたセリーの合間に様々なノイズ奏法の部分が挿入され、楽曲内では、使用される楽器編成に従って様々に解釈される。