シュトックハウゼンCDガイド 70-79

CD70 週の9つの香り

CUCHULAINN Solo for soprano, with synthesizer
KYPHI Duet for tenor and bass, with synthesizer
MASTIX Trio for Soprano, tenor, and baritone, with synthesizer
ROSA MYSTICA Solo for tenor, with synthesizer
TATE YUNANAKA Duet for soprano and baritone, with synthesizer
UD Solo for bass, with synthesizer
WEIHRAUCH Duetto for soprano and tenor, with synthesizer
KNABEN-DUFT Solo for alto, with synthesizer, vocal sextet
HIMMELS-DUFT Duet for boy’s voice and alto, with synthesizer, vocal sextet

演奏:
ソプラノ:Isolde Siebert, Ksenija Lukič
アルト:Suzanne Otto
テノール:Hubert Mayer, Bernhard Gärtner
バリトン:Jonathan de la Paz Zaens
バス:Nicholas Isherwood
子供の声:Sebastian Kunz
シンセサイザー:Antonio Pérez Abellán
サウンド・プロジェクション:Karlheinz Stockhausen

録音:2003年

CD69「DÜFTE-ZEICHEN」の各部分を独立した作品として演奏するための各ヴァージョンを収録。


 

CD71 HOCH-ZEITEN合唱版

HOCH-ZEITEN(2001/02) for Choir

・第1群 sopranos 1.1, 1.2 / antique cymbal
・第2群 sopranos 2.1, 2.2 / rin
・第3群 altos 1, 2 / plate bells
・第4群 tenors 1, 2 / Thai gongs
・第5群 basses 1, 2 / sound plates
・トゥッティ

演奏:
西ドイツ放送合唱団
指揮:Rupert Huber 及び指揮者も兼ねる5人の合唱団員

録音、ミックス・ダウン:2003年

CD73「HOCH-ZEITEN合唱版」の各群の演奏のみを聴けるようにした学習用CD。3枚組


 

CD72 HOCH-ZEITENオーケストラ版

HOCH-ZEITEN(2001/02) for Orchestra

・第1群 3 flutes / 3 violins / antique cymbal
・第2群 3 oboes / 3 trumpets / rin
・第3群 3 clarinets / 3 violas / plate bells
・第4群 3 horns / 3 bassoons / Thai gongs
・第5群 3 trombones / 3 violoncelli / sound plates
・トゥッティ

演奏:
西ドイツ放送交響楽団
指揮:Zsolt Nagy, Valerio Sannicandro, Wolfgang Lischke
音楽監督、サウンド・プロジェクション:Karlheinz Stockhausen

録音:2003年、ミックス・ダウン:2004年

CD73「HOCH-ZEITENオーケストラ版」の各群の演奏のみを聴けるようにした学習用CD。3枚組


 

CD73 HOCH-ZEITEN

HOCH-ZEITEN(2001/02) for Orchestra
HOCH-ZEITEN(2001/02) for Choir

演奏:
西ドイツ放送交響楽団、合唱団
オーケストラ指揮:Zsolt Nagy 及び5人のアシスタント指揮者
合唱指揮:Rupert Huber 及び5人の指揮者も兼ねる合唱団員
シンセサイザー:Antonio Pérez Abellán
音楽監督、サウンド・プロジェクション:Karlheinz Stockhausen

録音:2003年、ミックス・ダウン:2003-04年

「光の日曜日」第5場面。どちらも基本的に同一のスコアとなっている。
5群に分かれ、それぞれが異なるテンポで演奏を続ける。


 

CD74 日曜日の別れ

SONNTAGS-ABSCHIED(2001/2003) electronic music (5 synthesizers)

シンセサイザー:Marc Maes, Frank Gutschmidt, Fabrizio Rosso, Benjamin Kobler, Antonio Pérez Abellán
サウンド・プロジェクション:Karlheinz Stockhausen
録音:2004年

この作品は「日曜日」の最終場面HOCH-ZEITENの5群の合唱部分を5台のシンセサイザーに置き換えたものです。
この作品の世界初演を聞きましたが、その時に私が不満に思っていたいくつかのシンセのプログラミングの問題点が解決されていて、5つのシンセサイザーの多彩な音色と複雑なリズムがおりなす抽象的な音模様を存分に堪能することが出来ました。HOCH-ZEITENの5群の合唱パートを5台のシンセサイザーで解釈し直しただけの作品なのに、単なる「別ヴァージョン」を通り越した独自の世界を形作った作品となっています。
HOCH-ZEITENが同時に5つのテンポで演奏するのと同様、この作品でも5人のシンセ奏者はそれぞれ異なるテンポで同時に演奏します。

この複雑なテンポの同期を可能にするために各奏者はイアホンを付けてクリック音に合わせてテンポを取るのですが、このクリックトラックのステレオミックスがおまけとして併録されています。1,2,3・・・という拍のカウントがシュトックハウゼンの声、「何ページ目」というページ数を知らせる声がカティンカの声で収録されています。本来は一つのトラックだけを聞く目的のクリックトラックですが、同時に5つのクリックトラックを聞くと、当然5つの異なるテンポでカウントするシュトックハウゼンの声が聞こえてくることになります。このこと自体には「遊び」以上の何の意味もないのですが、その「遊び」をキュルテンでの講習会のレクチャーで再生してみたところ、受講生にバカ受けでした。私も聞いて悶絶するほど爆笑した記憶がありますが、単に「楽しみ」だけのためにあのクリックトラックをまた聞きたいな、と思っていたら、シュトックハウゼンが「多くの人の要望に応えて」このクリックトラックを併録することにしたとのことです。

関連録音:
CD73:HOCH-ZEITEN
CD75:光線


CD75 光線

STRAHLEN(2002) for a percussionist and 10-track recording

ヴィブラフォン:László Hudacsek
サウンド・プロジェクション:Kathinka Pasveer
録音:2010年

5台のシンセサイザーのための『日曜日の別れ』を5台のヴィブラフォン(1台のみライヴ、残りはテープを再生)で演奏する別ヴァージョン。ここで多用されるポルタメントはヴィブラフォンでは演奏不可能だが、電子変調技術を駆使してこれを可能にした。

関連録音:
CD73:HOCH-ZEITEN
CD74:日曜日の別れ


 

CD76 「シリウス」のための電子音楽

ELECTRONIC MUSIC of SIRIUS(1975-1977) in 4 versions:

・春ヴァージョン
・夏ヴァージョン
・秋ヴァージョン
・冬ヴァージョン

4人の奏者(トランペット、バス・クラリネット、ソプラノ、バス)と電子音楽のための大作「シリウス」の、8チャンネルで再生される電子音のみを収めたものである。
「シリウス」は、序奏部である「登場」、中心部分の長大な「車輪」、コーダに当たる「告知」という3つの部分に分かれているが、一年の四季を表す「車輪」はさらに「牡羊座(春)」「蟹座(夏)」「天秤座(秋)」「山羊座(冬)」の4つの部分に分けられこの4つの部分のどこから演奏を始めても良い可変構造になっている。
どの部分から始めるかによって「春ヴァージョン」「夏ヴァージョン」「秋ヴァージョン」「冬ヴァージョン」と名前が付けられるが、このアルバムではその4つのヴァージョン全てが収められている。

「シリウス」は1年間の12の星座を12のメロディーで描いた作品「ティアクライス(十二宮)」の拡大ヴァージョンであり、「車輪」の部分でこの12のメロディーが順番に演奏されるようになっている。但し、電子音楽の部分にはその内、4つの季節を代表する「牡羊座」「蟹座」「天秤座」「山羊座」の4つのメロディーのみが使用されているが、この長大な「車輪」の部分にはそれ以外の素材が一切使用されていないのは驚くべきである。
これらのメロディーはある時は全体像が見えなくなるほどまで異様に弾きのばされたり、逆に極端に圧縮される事によってメロディーがノイズへと変容していったり、そうしたイヴェントが多層的に重なったりと、最小限の素材が果てしなく展開されてゆく。メロディーがモチーフに細分化されて展開されるのではなく、メロディー全体が1つのオブジェとして変容されていることにも注意を向けなくてはならないだろう。

「シリウス」の本来のヴァージョンではここに4人の演奏者が加わることにより、さらに複雑なポリフォニーが形成されるが、これをいきなり完全に聞き分ける事は不可能である。この電子音楽のみのヴァージョンを聴く事によって、演奏者の陰に隠れていた電子音楽部分の豊かな楽想をクリアーに把握し、作品のより深い理解へと繋げてゆく事ができるであろう。

8枚組

関連録音:
・「シリウス」CD26


 

CD77 テノール作品集

TIERKREIS Version 2003 for tenor and synthesizer
DIE 7 LIEDER DER TAGE(1986) for tenor and synthesizer
VISION(1980) for tenor, trumpeter, synthesizer and tape

演奏:
テノール:Hubert Mayer
シンセサイザー:Antonio Pérez Abellán
トランペット:Marco Blaauw (VISION)
サウンド・プロジェクション:Karlheinz Stockhausen

録音:2005年

「日曜日」のほぼすべての場面で登場するテノール・パートの初演を全て受け持ったフベルト・マイヤーの演奏をまとめたアルバムである。

TIERKREISは12の星座を表す12のメロディーを何度か繰り返しながら演奏するが、どのように繰り返すかは決められていない。今回の作曲者自身によるテノールとシンセサイザーのためのヴァージョンでは、これまでの彼自身によるヴァージョンと比べてもかなり自由にメロディーを変化させている。途中でテンポを極端に変えたり、メロディーの中の数分をCDの「針飛び」のように無機的に繰り返したり、「獅子座」でテノール歌手が突然ライオンのまねをしたり(失笑)と、1つのメロディーの多彩な側面を楽しめるようになっている。特筆すべきはアントニオによるシンセサイザーのプログラミングである。原曲のオルゴール風の音色を基本としつつ、様々な手法でその音色を変調し、鳥や猫の鳴き声を思わせるようなユーモラスなサウンドも織り交ぜ、この作品のもつ幻想的で可愛らしい雰囲気をうまく表現している。

DIE 7 LIEDER DER TAGEはカティンカによる歌唱の録音がすでに発売されているが、今回は「本職」の歌手による演奏である。原調での演奏だったカティンカ盤に対し、フベルト・マイヤーは完全4度上に移調した「高声用」のヴァージョンを演奏している。カティンカの演奏は子音のノイズ的側面を強調した「器楽的」な演奏に対して、フベルト・マイヤーは歌い手ならではの声の美しさを生かした演奏になっている。ややリバーブの深いカティンカ盤の録音に対して、当盤ではリバーブは少なめに抑えられているので唱法の細かい変化までクリアーに聴き取る事ができる。

VISIONは「木曜日」の最後を飾る神秘的な作品である。
最弱音で微かに震えるシンセサイザーの和音が背景で鳴り続け、トランペットとテノールが弱音を中心とした演奏を繰り広げる。終始極めて少ない音数で、テノールの無声音による歌唱とトランペットの気息音が結びつけられたり、沈黙の中を舌打ちのクリック音が時を刻むように静かに演奏されたりと、非常に緊張感の高い演奏が続く。作品の途中で「木曜日」の様々な場面がテープを演奏する事により回想されるが、この挿入句があるために弱音の緊張感がより高まっている。

関連作品:
・DIE 7 LIEDER DER TAGE(カティンカの演奏)CD63
・TIERKREIS(オルゴール版)CD24、(クラリネット版)CD32、(トリオ版)CD35
・「光の木曜日」CD30


 

CD78 サクソフォン作品集

AMOUR(1976/2003) for saxophone
SAXOPHON(1977) for soprano saxophone and bongo
PICCOLO(1977/2004) for saxophone with geisha bell
IN FREUNDSCHAFT(1977) for saxophone
KNABENDUETT(1980) for 2 soprano saxophones
ENTFÜHRUNG(1986/2004) for saxophone and tape

演奏:
サクソフォン:Julien Petit
ボンゴ:Michael Pattmann (SAXOPHON)
芸者の鈴:Kathinka Pasveer (PICCOLO)
サクソフォン:Antonio Felippe Belijar (KNABENDUETT)
音楽監督:Karlheinz Stockhausen

録音:2004/2005年


 

CD79 打楽器作品集

VIBRA-ELUFA(2003) for vibraphone

ヴィブラフォン:Michael Pattmann

KOMET(1994/1999)
Version for a percussionist, electronic and concrete music, sound projectionist

打楽器:Andreas Boettger

NASENFLÜGELTANZ(1983/1988) for a percussionist and a synthesizer player

打楽器:Stuart Gerber、シンセサイザー:Antonio Pérez Abellán

KLAVIERSTÜCK XVIII (MITTWOCH-FORMEL)(2004) for electronic piano

シンセサイザー:Antonio Pérez Abellán

MITTWOCH-FORMEL(2004) with 3 percussionists (METAL – WOOD – SKIN)

打楽器:Michael Pattman, Oleg Dziewanowski, Stuart Gerber

サウンド・プロジェクション:Karlheinz Stockhausen
録音:2000年(Komet)、2005年(その他)

このアルバムは『光』の派生作品から、打楽器のための作品を中心に集められている。
打楽器は、シュトックハウゼンにとって電子音楽と同じように音色の玉手箱であるということが体感できるこのアルバムの面白さは、最近発売された彼のアルバムの中でも一二を争うと言っても良いだろう。

VIBRA-ELUFAは「金曜日」の中のフルートとバセットホルンの二重奏曲ELUFAをヴィブラフォン独奏のためにアレンジしたものである。管楽器の微分音による疑似グリッサンドの繊細な効果が、ヴィブラフォンのグリッサンドの共鳴の効果へと置き換えられた、地味ながら美しい作品である。

KOMETも「金曜日」からの派生作品であり、「子供の戦争」の別ヴァージョンである。
「子供の戦争」は重厚な電子音楽に少年合唱の生演奏が加わり、シンセサイザー奏者は一定の制約の中で自由に音楽的注釈を付ける事が求められている。ここで収録されているヴァージョンはそのシンセサイザーのパートを打楽器に置き換えたもので、同様に打楽器奏者が自分で演奏用ヴァージョンを作り出す事が求められる。ちなみにオリジナルの少年合唱のパートはカティンカ・パスフェーアによる超絶的な歌唱のマルチ・トラック・レコーディングで電子音楽と共にスピーカーから再生される。
打楽器とサンプラーを併用し、文字通りおもちゃ箱をひっくり返したように多彩でユーモラスな響きはシリアス一辺倒ではないシュトックハウゼンのもう一つの側面を象徴している。

NASENFLÜGELTANZ(鼻翼の踊り)は「土曜日」第3場面「ルツィファーの踊り」からの派生作品であり、激しくユーモラスなアクションをしながら「似非」ドラムセットを超絶的に演奏する打楽器奏者とシンセサイザーのためのエキサイティングな作品である。
種々の打楽器に加えてサンプラーなどの電子機器も使用し、ちょっとした歌唱パート(これが抱腹絶倒である)までもこなす打楽器奏者の名技も聞き物であるが、シンセサイザー重厚な和音が左右に頻繁に動き回る(サイケデリック・ロックも連想させる)思い切ったミキシングも面白い(ちなみにこの空間移動は原曲のオーケストラ配置に対応している)。

KLAVIERSTÜCK XVIII(ピアノ曲XVIII)とMITTWOCH-FORMEL(水曜日のフォーミュラ)の二つの作品はどちらも実質的には同じ作品である(KOMETにシンセ版と打楽器版があってシンセ版の方に「ピアノ曲XVII」というタイトルを付けたのと同じ発想である)。
この2つの作品はどちらも「水曜日のフォーミュラ」を著しく引き伸ばして声部やテンポを変化させながら3度演奏するが、主に3声で構成されるこのフォーミュラを打楽器版では金属、木、皮の打楽器、シンセ版ではそれに対応する音色を、演奏者が自由に選ぶ。「光」のフォーミュラには通常のメロディーの間に様々なノイズ的音響が挿入されるが、そこをどのように解釈するかも演奏者の創造性の見せ所である。
シンセ版ではアントニオの洗練されたプログラミングによる美しい音色のハーモニーが非常に印象的だ。ピッチベンドを使用したグリッサンドの効果も面白い。
打楽器版はカラフルな音色の組み合わせや前述のノイズ的音響に対応する楽器、奏法の選択が興味深いが、クセナキス的なパワフルな演奏効果と対極にある静謐なアンサンブルの美しさが聞き所である。
サウンドの美しさがそれ自体だけでなく、フォーミュラという耳で聴き取れる構造に結びついている事も重要である。

ちなみに「水曜日」のフォーミュラは「光」のスーパー・フォーミュラそのものにかなり類似しているのでフォーミュラを聴き取る「練習曲」としても最適である。

関連作品:
「金曜日」CD50
「コメット – ピアノ曲XVII」CD57
「土曜日」CD34