松平敬『とんとん』楽曲解説と分析

作品概要
紙相撲は、紙で作った力士と土俵で、相撲を模倣するゲームである。そして、本作『とんとん』は、紙相撲を2台ピアノで模倣する作品である。紙の土俵をとんとんと叩く所作が、ピアニストの連打に置き換えられ、その他、相撲の様々な所作、番付によるヒエラルキーなど様々な要素が、音楽構造に使用されている。この作品は、連続して演奏される以下のセクションから構成される。

土俵入り
幕下
十両
前頭
小結/関脇
大関
横綱
弓取式

 

演奏法(抄)
この作品の主要部分は、「幕下」から「横綱」までの各「取組」である。
各取組は、呼び出し、塩まき、取組の3つの部分からなる。
呼び出しのメロディーがどちらかの奏者によって演奏されるときに、もう1人の奏者が紙相撲の力士(以下力士)を譜面台の左側の台に厳かにセットする。

「横綱」の呼び出し

 

「塩まき」のパートでは、塩をまく音形の演奏、立ち上がって体をパチパチ叩く動作、「取組」の開始音の鍵盤の位置の確認という一連の動作が1〜3回行われる。

「十両」の塩まき

 

「取組」のパートではグラフ状の楽譜を元に、両奏者が単音を連打しながら音域を移動する。開始音の指使いを変えてはいけない。数字の1〜6は演奏時間の目安(例:1=10秒)を表す。演奏時間は厳密でなくてよく、両者の見計らいでアンサンブルする。
最低音の鍵盤に到達すると「負け」、紙相撲の力士を手で床にはらい落とす。勝ち力士は最高音の鍵盤に到達する。

「前頭」の取組

楽曲分析
各取組の構造はグラフの折れ線の数をコントロールすることで決定されている。
取り組みの複雑さと折れ線の「角」の数が比例することになる。上位力士になるに従ってこの数は増加傾向を持つように、しかし単調な変化にならないよう、セリエルに計画されている。(前頭の部分は、様々な作曲上の都合により「調整」が行われている)

力士のヒエラルキーは、呼び出しのメロディーの和声付(上位ほど構成音が多い)、塩まきの音形の音程構造や繰り返し回数など、様々な楽曲構成に反映している。

コーダ的な「弓取式」のパートは、弓取式の所作から発想された両手を交差させる音形で作られている。音程が跳躍するほどテンポを減速させながら演奏する。このプロセスが3回繰り返される間に各音の構成音が増えていく。