階名だけで作られた詩 〜 シュヴィッタース『so la so mi』

By | 2016-07-11


シュヴィッタースは、言語から意味性を取り除いた音声によって音響詩を作った。
ここで素材となっているのは一種の架空言語であり、予備知識がなければ、彼の音響詩を見知らぬ言語による詩だと勘違いする人も少なくないだろう。

彼の実験はここにとどまらず、数字のみによる詩、単独のアルファベットそのものを配列した詩など、通常の言語以外の要素による詩作の試みも行われた。

さて、ここで紹介する作品は音楽の階名(ドレミ…)だけで構成された詩である。

so la so mi
so la so mi
re re si
do do so
la la do si la
lo la so sai
la la do si la

特に音楽の素養のある人がこの詩を見たり聞いたりすれば、その階名(*1)が指し示す音が思い浮かぶであろう。これは、もう一捻りした音響詩といえる。

本リアリゼーションでは詩を朗読しながら、そこで指し示されている音をピアノで演奏してみたが、この詩全体がある有名な歌の引用であることがすぐに分かるだろう。
いわゆるレディメイドであるが、作品の途中までしか引用されていないことと、一部の階名が改変されているところに、シュヴィッタースのセンスがさりげなく刻印されている。(*2)

改変されている部分は「so la so mi」となるべきところが、「lo la so sai」となっているところ。「so la」の子音を揃え「lo la」とし、「so mi」も同様に「so sai」としてある。同じルールを適用するのであれば「so si」とすべきであろうが、そうすると改変した階名が別の階名になってしまうので、それを回避するとともに、o-a-o-aという母音のリズムを生かすべく、このような処理になったのであろう。

*1) ソは一般的には「sol」と綴られるが、(おそらく語調を揃えるために)ここでは「so」と表記されている。

*2) デュシャンがモナリゼに髭を書き加え、自身の作品にしてしまった「L.H.O.O.Q.」を想起する方も多いだろう。有名曲のメロディーの引用だけで作品を構成した音楽作品としては、ケージの「チープ・イミテーション」がよく知られている。この作品は、サティ「ソクラテス」の歌手パートのメロディーの引用のみを作曲素材としている。本リアリゼーションは、結果的にケージとの(おそらく偶然の)類似性を浮かび上がらせることとなった。