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coverキース・ジャレットが1994年にブルーノートで行った一連のライヴを全て収めたこのCD6枚組のボックスセットを今でも時々無性に聴きたくなるのです。この手のボックスセットはビル・エヴァンスやマイルス・デイヴィスなどにお約束のものですがその全てが死語にまとめられたもので、しばしば同じ曲の別の日の演奏が何種類も収められたりしていて、それはそれで楽しいものの、アルバムとしての完成度がそこで落ちてしまいます。
しかし、キースのこのライヴは始めからすべてをレコーディングして発売しようという計画を立てていたので、曲目もほとんどダブりなしでメジャーなスタンダード曲からキースのオリジナルまでありとあらゆる曲がこれでもかというくらいに収められていて、そのすべてがハイレベルな演奏という驚異的なライヴの記録ともなっています。

cover一見スタンダーズ・トリオのライヴ録音の様に見えますが、ドラムはジャック・ディジョネットではなくキースと70年代を共にしたポール・モチアンです。たしか、代役か何かでの出演だったと思います。
この二人のドラマーの資質の違いからか、このライヴではやや叙情的な性格が強調されていますが3人ともよく「歌って」います。

途中からアラビア風な音階に変容していくYou don't know what love isもいいですし、定番のSolar, Bye bye blackbirdなどもいいですが、Basin street bluesでのブルース・フィーリングの素晴らしさには溜息が出ます。

coverううん、ECMのアルバムはやはりジャケのデザイン・センスがものすごくいいですね。

タイトル通りオペラの殿堂ミラノのスカラ座でのキースのソロ・コンサートのライヴ録音です。普通はどういう曲をやってどういう構成で、などと事前に準備するものですが、キースが70年代以降ずっとやってきているスタイルは事前の準備一切なしの全くの白紙の状態でステージへ立つ、というものすごいコンセプトをもっています。したがって会場の雰囲気や音響、聴衆の雰囲気がダイレクトに演奏に影響すると思われますが、この演奏からはたしかにイタリアらしい解放された雰囲気が感じられます。

冒頭のトリルで始まるフレーズでいきなり昇天しそうになりますし、途中でのセシル・テイラーばりの無調のフリーな部分も深刻な感じではなく、むしろ軽やかな雰囲気を醸し出しています。

キースのソロ・コンサートというとどうしてもケルン・コンサートばかりが注目されますが、このスカラ座での演奏も、彼の数多くのソロ・コンサートの中でも一二を争う充実した出来栄えだと思います。

キースのスタンダーズ・トリオの最新盤にして結成20周年記念盤。
このトリオに関しては特に近年マンネリだなんだという批判もちらほら聞こえてきますが、そういう人は音楽を表面的なスタイルでしか捉えられてない人だと個人的に思います。

まず、20年間全く同じメンバーで継続するということが驚異的です。これは少しでも自分自身で音楽を演奏した事がある人ならすぐ分かる事です。同じメンバーで数年やっていたら大体行き詰まってしまうものです。

そして、スタンダード作品のみを演奏するという基本コンセプト。
これは一見安易な企画のようですが、このスタイルだけで20年やり通すというのは相当な精神力と音楽的な創造性が必要です。
ピアノ・トリオというありふれた編成で、手垢にまみれたスタンダード曲を演奏し続けようとすると、すぐにゲスト奏者を呼んだり、プログラミングに企画性を持たせるとか、ものすごく独自な解釈で演奏するとかなどといった誘惑がすぐ出てきますが、キースはこのどの罠にも陥っていません。
キースのこのトリオをマンネリだという人は知らず知らずこの辺の罠に陥っている訳です。
どちらかというと、こうした誘惑は、どんどん新譜を買わせようとする「商売上の」戦略に見事にはまっているといえるでしょう。

繰り広げられる演奏はキースの音楽としか言い様のないものオリジナルなものですが、アレンジは独創的であっても決して奇をてらったものではないし、アドリブも原曲のコード進行に極めて忠実なものです。
しかし、キースの弾き出すラインはうねうねと曲がりくねり、フリージャズでしか成し得なかったような自由奔放なメロディーラインをスタンダードのコードに忠実に描き出す、という極めて高度な段階に達しているのです。

この最新作up for itでは「枯葉」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」などの超有名曲の割合がかなり高いですがそれにも関わらず演奏内容は極めて挑戦的です。
こうした超有名曲を並べてみたこと自体が挑戦的であると言ってもいいかもしれません。
フレーズも前作までと比べて、より濃厚になって来た印象を受けますし、その「濃さ」はピアノから紡ぎ出されるフレーズがトランペットやサックスで奏でられるようにしばしば錯覚してしまうところでも確認できます。

70年台の活動を考えればすぐ分かる通り、彼は「変なこと」をやろうと思えばいつでもできるのです。
でもそうした誘惑を断ち切り、「ごく普通な」ことを非常に高度なレベルで行い、その本質を探ってみると、実はものすごく「変な」ことを行っているのです。

このトリオも遂にフリージャズ的なアプローにも手を染め始めましたが、彼らにとってはむしろこちらの方が楽な筈です。しかし、「フリージャズ」というクリシェと不自由に染まってしまう危険性を感じ取っていた彼らはこうした「持ち駒」を最近まで取っておいたのでしょう。

この偉大なトリオにとってはスタンダードを高度な内容で演奏し続ける、という一見安易なことが実は最も挑戦的なことなんだと思います。
このまま30周年を狙うつもりで頑張って欲しいですね。

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