本日は、東大駒場キャンパスへフォルマント兄弟(三輪眞弘+左近田展康)の作品のレクチャーも伴った演奏会を聴きに行きました。
(他にシンポジウムなどもありましたが、諸事情により欠席)
はじめに演奏したのは《フレディーの墓/インターナショナル》。クイーンのヴォーカリスト、フレディー・マーキュリーに有名な《インターナショナル》を日本語で歌わせる、というコンセプトですが、この彼の声はサンプリングのような編集によらない、完全な電子音響というところがポイントです。彼の声色を完全に分析し、ピッチや母音の変化をさらに電子的にコントロール可能にしているのですが、例えば「初音ミク」のようなものとは決定的に違っているのが、リアルタイムで演奏可能、ということです。
このテクノロジーによって、カラオケにあわせて、ステージ上のひとりのキーボード奏者(岡野勇仁)が、リアルタイムで、「フレディー・マーキュリーの声で」インターナショナルを「日本語で」歌うという芸当を行う、というのが可能になっています。
「兄弟」は、一瞬でも、フレディー・マーキュリーの声だな、と認識したなら、(実体が存在しないにも関わらず)彼が実際にインターナショナルを日本語で歌った、という事実が存在するのだ、と主張します。
この作品のPVはこちら(↓)から見られます(映像になってしまうと、この効果が半減するのが残念ですが)。
この演奏に引き続いて、兄弟による、この作品に使われたテクノロジーの詳細な解説が続きました。
はじめの問題は、いかにリアルタイムで言葉を話させるか、という点です。
1オクターヴの鍵盤の黒鍵を5つの母音、k,s,t,n,h,m,rといった子音を7つの白鍵に割り当て、黒鍵と白鍵を同時に弾くことによって、ひとつの音素を演奏可能にしています。
濁音やy,wなどの半母音も補助的な鍵盤を同時に弾くことによって発音可能にしていますが、ポイントは、すべての日本語の音素が「片手」で「演奏」できる、ということです。
このことによって、キーボードの低音域(左手)を発音、高音域(右手)をピッチに割り当てることによって、リアルタイムで、任意のピッチで任意の音素を話す、あるいは歌うことが可能になります。
この発音システムの詳細は
こちら、このシステムを用いて「インターナショナル」を歌わせるための楽譜は
こちらをご覧下さい。
次の問題が、ピッチです。声の微妙なゆらぎや、非西洋音楽にも対応するために微分音程を通常のキーボードでそれほどの困難を感じさせずに演奏するシステムを考えました。純正5度を含む17平均律を使い、例えば隣り合ったCとC#の鍵盤を同時に演奏すると、その中間の音程が演奏可能になるようなプログラミングを施し、さらに微妙な音程を出したければ、同時に弾く鍵盤の音程を変えるとか、3音同時に弾くなどの技を実演もしていました。これはおそらく、演奏された鍵盤のからそれぞれの周波数を割り出し、その平均の周波数が出力される仕組みになっていると予想されます。
声は和音が出せませんから、出せない和音をゆらぎに使う、というのはうまい発想だと思いました。Cの音を伸ばし続けて、Dの鍵盤をトレモロの様に演奏すれば、ヴィブラート風になりますし、同様のテクニックで「こぶし」のようなことも可能になります。
このようにして、こうした発音、微分音の細かいニュアンスを伝統的な鍵盤のみで可能にしたわけですが、これは、そうした効果を完全に記譜しておけば、リアルタイムで、リアルな歌声が実演可能となる、ということを意味します。
(しかも、その楽譜は、多少細かい音価を含むものの、伝統的な五線譜です。楽譜と出てくる音が一致しないのはプリペアド・ピアノと同じですが)
そしてこの技術を駆使したのが、本日披露された新曲《都々逸》です。
三味線奏者(田中悠美子)と歌(岡野勇仁)の二人のための作品ですが、当然この歌のパートはキーボードによって演奏される電子音響で、見事なこぶしを加えて演奏されます。
三味線を弾くお師匠さんが「発音が悪いわね」とか「こぶしが下手ねぇ」などとたしなめる小芝居がなかなか洒落ていました。
最後に、レクチャーの中でも上映した、 "Ordering a Pizza de Brothers!"の動画を紹介します。これは、ピザ屋に電話をかけて、リアルタイムに演奏される電子音響の声がピザを注文する、というものですが、これをパフォーマンスとして、観客の前で上演する、そして、ピザ屋の人は、普通の人間が注文していると、思い込んでいるのがポイントです。
歌い手としては、非常に複雑な心境でしたが、この電子音響による架空の歌手との二重唱も楽しいのではないか、などと妄想もしました。
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