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先日紹介したフォルマント兄弟にインスパイアされて、伝統的なキーボード演奏のみで微分音をリアルタイムで演奏(ただしモノフォニックのみ)するためのシステムをMax/MSPでプログラミングしてみました。

原理は非常に簡単で、和音として演奏した鍵盤の丁度中間のピッチが演奏されるというものです。したがって、短2度音程による和音を弾くと、その中間の4分音が演奏されるということになります。

全く同じ原理で、3音による和音で6分音(半音の3分割)、4音和音で8分音(半音の4分割)が演奏可能です。
金管楽器や弦楽器のように、異なる「運指」で同じピッチを演奏することも可能ですが、演奏のしやすさなども考慮して、4分音、6分音、8分音、10分音の「運指法」を考えてみました(当然ながら、ここから3分音、5分音の運指は容易に導けます。両手の10本の指を総動員すれば、20分音(!)まで演奏可能です)。
当然、4分音から6分音に突然移行、などというのも、和音の構成音を変えることのみで可能ですので、かなり複雑な微分音によるメロディーを比較的簡単に演奏ができます。

以下、この音階のサンプル音源です。
プログラミングがまだ完璧でないので、微妙な音のしゃくりはご容赦ください。

ここまできて、半音階を聴いてみると、半音がとてつもなく広く感じられるでしょう。
本日は、東大駒場キャンパスへフォルマント兄弟(三輪眞弘+左近田展康)の作品のレクチャーも伴った演奏会を聴きに行きました。
(他にシンポジウムなどもありましたが、諸事情により欠席)

はじめに演奏したのは《フレディーの墓/インターナショナル》。クイーンのヴォーカリスト、フレディー・マーキュリーに有名な《インターナショナル》を日本語で歌わせる、というコンセプトですが、この彼の声はサンプリングのような編集によらない、完全な電子音響というところがポイントです。彼の声色を完全に分析し、ピッチや母音の変化をさらに電子的にコントロール可能にしているのですが、例えば「初音ミク」のようなものとは決定的に違っているのが、リアルタイムで演奏可能、ということです。

このテクノロジーによって、カラオケにあわせて、ステージ上のひとりのキーボード奏者(岡野勇仁)が、リアルタイムで、「フレディー・マーキュリーの声で」インターナショナルを「日本語で」歌うという芸当を行う、というのが可能になっています。

「兄弟」は、一瞬でも、フレディー・マーキュリーの声だな、と認識したなら、(実体が存在しないにも関わらず)彼が実際にインターナショナルを日本語で歌った、という事実が存在するのだ、と主張します。

この作品のPVはこちら(↓)から見られます(映像になってしまうと、この効果が半減するのが残念ですが)。


この演奏に引き続いて、兄弟による、この作品に使われたテクノロジーの詳細な解説が続きました。

はじめの問題は、いかにリアルタイムで言葉を話させるか、という点です。
1オクターヴの鍵盤の黒鍵を5つの母音、k,s,t,n,h,m,rといった子音を7つの白鍵に割り当て、黒鍵と白鍵を同時に弾くことによって、ひとつの音素を演奏可能にしています。
濁音やy,wなどの半母音も補助的な鍵盤を同時に弾くことによって発音可能にしていますが、ポイントは、すべての日本語の音素が「片手」で「演奏」できる、ということです。
このことによって、キーボードの低音域(左手)を発音、高音域(右手)をピッチに割り当てることによって、リアルタイムで、任意のピッチで任意の音素を話す、あるいは歌うことが可能になります。
この発音システムの詳細はこちら、このシステムを用いて「インターナショナル」を歌わせるための楽譜はこちらをご覧下さい。

次の問題が、ピッチです。声の微妙なゆらぎや、非西洋音楽にも対応するために微分音程を通常のキーボードでそれほどの困難を感じさせずに演奏するシステムを考えました。純正5度を含む17平均律を使い、例えば隣り合ったCとC#の鍵盤を同時に演奏すると、その中間の音程が演奏可能になるようなプログラミングを施し、さらに微妙な音程を出したければ、同時に弾く鍵盤の音程を変えるとか、3音同時に弾くなどの技を実演もしていました。これはおそらく、演奏された鍵盤のからそれぞれの周波数を割り出し、その平均の周波数が出力される仕組みになっていると予想されます。
声は和音が出せませんから、出せない和音をゆらぎに使う、というのはうまい発想だと思いました。Cの音を伸ばし続けて、Dの鍵盤をトレモロの様に演奏すれば、ヴィブラート風になりますし、同様のテクニックで「こぶし」のようなことも可能になります。

このようにして、こうした発音、微分音の細かいニュアンスを伝統的な鍵盤のみで可能にしたわけですが、これは、そうした効果を完全に記譜しておけば、リアルタイムで、リアルな歌声が実演可能となる、ということを意味します。
(しかも、その楽譜は、多少細かい音価を含むものの、伝統的な五線譜です。楽譜と出てくる音が一致しないのはプリペアド・ピアノと同じですが)

そしてこの技術を駆使したのが、本日披露された新曲《都々逸》です。
三味線奏者(田中悠美子)と歌(岡野勇仁)の二人のための作品ですが、当然この歌のパートはキーボードによって演奏される電子音響で、見事なこぶしを加えて演奏されます。
三味線を弾くお師匠さんが「発音が悪いわね」とか「こぶしが下手ねぇ」などとたしなめる小芝居がなかなか洒落ていました。

最後に、レクチャーの中でも上映した、 "Ordering a Pizza de Brothers!"の動画を紹介します。これは、ピザ屋に電話をかけて、リアルタイムに演奏される電子音響の声がピザを注文する、というものですが、これをパフォーマンスとして、観客の前で上演する、そして、ピザ屋の人は、普通の人間が注文していると、思い込んでいるのがポイントです。


歌い手としては、非常に複雑な心境でしたが、この電子音響による架空の歌手との二重唱も楽しいのではないか、などと妄想もしました。


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「大人の科学」がまたまたツボなふろくを出しました。今回のふろくは4ビット「マイコン」、非常に貧弱な仕様ではありますが、2500円でコンピュータが手に入るのは驚きです。

そして、この貧弱な仕様こそが、ツボです。
iPhoneより若干大きめの、手のひらサイズですが、クロック周波数4MHz、メモリ容量46バイトという驚きの小容量、入力は機械語を16進数でぽちぽち打ち込んで、出力装置は6桁の2進LEDと1桁の数字LEDとスピーカーという慎ましい仕様となっています。

ハードディスクのようなものはないので、ぽちぽち打ち込んだプログラムも電源を切るとすべて消えてしまうはかなさも潔いです。

LEDの光が左右に揺れ動くような簡単な動作ですら、面倒なプログラミングが必要ですし、かけ算させようとすると、かなりの工夫が必要となります。そうした作業の中で、ちょっとした手直しをするのも大変なので、パソコンのテキストエディタでプログラムを書き、それをネット上にいくつか出回っているアセンブラで機械語に変換して、ぽちぽち入力するという倒錯した手順を取ることになります。

こんな貧弱な仕様なのに、付属のスピーカーを有効利用すべく音楽機能も一応備わっていて、簡単なシーケンサでメロディーを自動演奏することができるところがちょっとした感動です。

このマイコンを4台くらい集めてローテクなテクノポップもどきが演奏できると楽しいかもしれません。

「大人の科学」のふろくのminiテルミンが少し前に話題になっていましたが、いつのまにか、製品版としてグレードアップした「テルミンpremium」なるものが発売されていたのですね。
1万円を切る値段なので衝動買いしてしまいました。

外箱です。
マニアックな楽器臭をさせない家電っぽいデザインです。


外側の厚紙を引き抜くとこういう箱が出て来ます。
親しみやすい雰囲気(汗)


箱を横から見たところ。
miniテルミンと違って音量の調節もできます。


梱包されている本体です。
わくわくしますね。


電源は単4乾電池4本ですが、付属品ではなかったため近所のコンビニへ急いで買いにいきました。
そして、組み立てられた本体。

おまけに楽譜集もついています。
かえるのうた、グリーンスリーブスなどのメロディーの楽譜に、音を切るタイミング、ヴィブラートの書け方などが図形で示された初心者にもやさしい楽譜です。

お買い上げはこちらからどうぞ。

nihondenshi.jpeg圧倒的な情報量がぎっしりとおさめられた「日本の電子音楽」の増補改訂版が出版されました。もともと百科事典なみに分厚かったこの本が、さらに500ページ増やして1100ページを超える超大作となっています。

資料としてもっとも貴重なのは、日本の電子音楽の黎明期で中心的な役割を担った諸井誠氏へのインタビューが追加されたことでしょう。平石博一、三輪眞弘、鈴木治行各氏のインタビュー追加も嬉しいです。

個人的に興味深かったのが、鈴木治行氏がはじめて聴きにいった現代音楽のコンサートが国立劇場でのシュトックハウゼン《シリウス》日本初演の演奏会だったということです。
鈴木氏とは何度かご一緒していますが、そのような話を聞いた事がなかったのでちょっとびっくりしました。

ちなみにこの《シリウス》が日本で演奏されたときは、一番キャッチーなARIESの部分がまだ未完成だったり、スピーカーの品質の問題で作曲者の意図したとおりの音響が実現できなかったりと、不完全な部分が多かったようなので、いつか完全な形で再演されてほしいと思います。

またまたYouTubeネタですが、テルミンを演奏する猫の動画を紹介します。
そしてテルミンは以前ここでも紹介した学研の「大人の科学」のふろくです。

我が家ではカラス撃退に使ってますが、猫はこのサウンドに親しみがあるようですね。
どことなく猫の鳴き声っぽいですし。

otonakagaku.jpg以前から「ふろく」が何かと気になっていた「大人の科学マガジン」ですが、最新号の「ふろく」がテルミンと知って慌てて買いに走りました。
池袋のリブロに立ち寄ったら「完売、次回入荷11月」ということで、こんなマニアックなものが飛ぶように売れてるのか、と軽く驚きつつ別の本屋を探してようやくゲットしました。

ハンダ付けの様な作業は不要でネジで止めたり部品を差し込むだけで作業は簡単に終了、乾電池をセットしてスイッチを入れると、「あの」音が鳴り響きテンションが軽く上がります。手のひらに乗る小さなサイズですけど、てのかざし方でピッチが変わり色々と遊んでみました。楽器本体に手で触るだけでピッチが変化するほど繊細な仕組みですが、なんちゃってメルツバウ風なノイジーな音響を生み出す裏技を発見したりもして、今後の演奏会でもちょっとした飛び道具として使えるかもしれません。

さらに少し作ってみました。
まずモーツァルトの一節。

こぶしを入れる練習もしてみました。

ちなみに大まかなピッチはMIDIでコントロールし細かい揺らぎはマウスで画面上の曲線の形を変える事によって行います。
従って「歌」と「語り」の入力上の違いはそれほどありません。
言葉のイントネーションをドレミにあてはめて細部をゆらがせているだけです。

サンプリングでもヴォコーダーでもなく、声の倍音構造をモデリングするシンセサイザーなので、新しい未知の「母音」や「子音」を作ってありえない言葉を発音させる事も可能です。
機械が歌っている、という感じはしますが、妙にリアルなニュアンスも兼ね備えているのでかなり気持ち悪くなります。

以下の音声ファイルは、とあるソフト・シンセで作ったものです。

まず自己紹介をしてもらいましょう。

彼は歌詞をつけて歌う事も出来ます。

言葉の発音、音程(微妙なゆらぎ、ヴィブラートも含みます)もプログラミング可能ですし、声色も調整出来ます。

本日は、とある合唱団を指導していたのですが、練習中にその施設からサイレン風電子音と共に突如館内放送が入り「火災報知器が反応し云々」とのこと。最後に「そのままお待ち下さい」とのことだったので、練習を再開すると、数分後にまた同じような館内放送。
また同じ内容かな、と思っていたら「火事です。速やかに避難して下さい。」というメッセージ。ひーっ、リアル火事かよ!と驚き、練習を中断、慌てて荷物をまとめて階段で出口まで避難しました。
階段で少し焦げたような臭いがしましたが、直接火を見ることもなく、それほど大きなものではなかったらしい事にほっとしましたが、部屋にも戻れない状況だったので結局練習はそこで終わりとなりました。

今まさにいる建物が火事という体験はしたことがないので、一瞬ひやりとしましたが、「火事宣言」になったときのサイレン風の電子音の音色のプログラミングが妙に恰好良く、且つ音高の変化、リズムの構成など緊迫感をあおる感じでなかなか良いな、と冷静に分析してしまうあたりに音楽家の性を感じてしまいました。

そして今も、火事といえばハイドンに「火事」という副題のついた交響曲があるけど聴いた事ないな、とかケージの「ソング・ブックス」には「山火事の録音を再生すること」という指示のある曲があったななどと、余計な連想がさらに連なってしまっています。

シュトックハウゼンが1966年に来日し、NHK電子音楽スタジオで「テレムジーク」を制作するために佐藤茂氏と組み上げた音色変調回路「GAGKUネットワーク」の回路図がCD「音の始原を求めて3」のブックレットにのっていたので、それを元にMax/MSPで同じ仕組みのパッチを作ってみました(上図、クリックすると拡大します)。

2つのリング変調器と3つのフィルターを組み合わせた簡単な回路ですけど、音色変調の効果は絶大です。
オリジナルの回路にはない音声ファイルの(逆回転も含めて)再生スピードを変化させる機能を加えてみましたが、これだけで「なんちゃって60年代電子音楽」の響きを作る事が出来ます。

当たり前ですが、設定次第で「テレムジーク」風の独特なトレモロ効果を出す事も出来ます。
(ビートルズが使っているのと同じギターでHelpのフレーズを弾いて、「同じ音だ!」と感動するレベルの話ではありますが。。。

リング変調を基調としていることもあり、特に金管楽器、ハープ、ピアノなどの音色の変調の効果は絶品です。

ファイル書き出しの機能をつけて、音高を変化させずに再生速度を変化させる機能をつければさらに可能性が広がりそうな気がします。

一度回収になったこのCD再び発売のようです。

ソース:http://blog.diskunion.net/user/Peso/Peso/4484.html

収録作品は以下の通りですが、当初収録されていた小杉武久「キャッチ・ウェイヴ」がMICHAEL RANTAの作品へと差し代わったようです。

1. ディヴェルティメント / 三保敬太郎
2. 東京1969 / 一柳慧
3. トランジェット / 三善晃
4. 閏月棹歌 / 柴田南雄
5. MICHAEL RANTAの作品
6. パノラミックソノール / 武田明倫

この「音の始原を求めて」のシリーズ、最近続々発売されている「日本の電子音楽」を揃えると、日本の電子音楽の代表作の多くを網羅する事が出来ます。

1- 音の始原を求めて
2- 音の始原を求めて2
3- 音の始原を求めて3
01- 日本の電子音楽1
02- 日本の電子音楽2
03- 日本の電子音楽3
04- 日本の電子音楽4

現在手に入る以上のアルバムの作品の収録作品を作曲家別に整理してみました。

黛敏郎:
・素数の比系列による正弦波の音楽 -1
・素数の比系列による変調波の音楽 -1
・鋸歯状波と矩形波によるインヴェンション -1
・マルチ・ピアノのための「カンパノロジー」 -2
・電子音響と声による「まんだら」-3

諸井誠:
・ピタゴラスの星 第1部「沈黙の輪」 -1
・ヴァリエテ -1
・小懺悔 -3
・赤い繭 -03

諸井誠、黛敏郎:七のヴァリエーション -1

湯浅譲二:
・ホワイト・ノイズのための「プロジェクション・エセンプラスティク」 -2
・ホワイト・ノイズのための「イコン」 -2
・ヴォイセズ・カミング -3
・葵の上 -01
・マイ・ブルー・スカイ第1番 -01
・人形劇「モマン・グランギニョレス」の音楽 -02
・舞踏劇「お椀」の音楽 -04
・舞踏「三つの世界」の音楽 -04

秋山邦晴:
・人形劇「脳味噌」の音楽 -02
・秘法19(テープパート) -03

柴田南雄:
・電子音のためのインプロヴィゼーション -2
・柴田南雄:ディスプレイ '70 -3

高橋悠治:フォノジェーヌ -2

松平頼暁:トランジェント '64 -2

篠原眞:ブロードキャスティング

武満徹や篠原眞の電子音楽作品は、まとめて収録されたものがありますから、その辺りも合わせればバッチリでしょう。

japanelecmus.jpg川崎弘二著によるこの本の638ページという分量にまず驚かされますが、内容もページ数に見合った濃厚なものです。巻末に収められた資料集は日本の電子音楽の作品リスト、音源リスト、文献リストの3本立てになっていて、これだけで200ページ弱、「主要」なものと慎ましく書いてありますが、ここにのってないものはないと事実上言ってもよいのではないでしょうか。

あまりの分量にまだまだ読み切れていませんが、第二章では19人に及ぶ関係者へのインタビュー、第三章での詳細な年代ごとの記録(1953〜75年の間に関しては毎年の状況が詳細にまとめられています)という堂々たる構成にはひれ伏すしかありません。

インタビューに登場する人は、湯浅譲二、上浪渡、佐藤茂、一柳彗、高橋悠治、小杉武久、水野修孝、松本俊夫、松平頼暁、篠原眞など錚々たるメンバーです。
柴田南雄、武満徹、黛敏郎、諸井誠あたりの大物が抜けている事を差し置いても、非常に貴重な資料になり得ると思います。

最近、どんどん日本の電子音楽の音源が発売されてきていますが、インタビューや年代記での記述をみるとまだまだ未知の作品が埋もれています。この書籍の出版をきっかけに、もっと音源が発掘される事を願いたいものです。
演奏家が楽譜を演奏して再現する事の出来ない電子音楽が生き残って行くためにはそれしか方法がないのですから。

個人的にはシュトックハウゼンが日本の電子音楽に与えた影響が気になるところですが、50年代の初期の電子音楽の作曲技法へ与えた影響(曲によってはシュトックハウゼンの作曲プロセスを雛形にした模倣的なものもあります)、1966年に来日した際のNHKの電子音楽スタジオでの「テレムジーク」「ソロ」の作曲、1970年の大阪万博での演奏に関しては、もちろんきちんと押さえられています。
知らなかった事としては、シュトックハウゼンのアシスタントもしていたこともある篠原眞が「ミクストゥール」のスコアの浄書をやっていたことが挙げられます。

その部分を引用すると、

「ミクストゥール」を二ヶ月かけて書きました。シュトックハウゼンがさっと速く書いてきた草稿を、A2の大スコアに見やすく美しく書くという事でした。
シュトックハウゼンはおそらく早起きして一、二ページを書きます。毎朝西ドイツ放送局電子音楽スタジオで会ってその草稿を受けとり、できればその日のうちに清書するわけです。とても骨の折れる仕事でした。
(引用終わり)

この辺のプロセスに、いかにもシュトックハウゼンらしいな、というのがにじみ出してきますけど、おそらく膨大なダメ出しを受けながらの大変な作業だったと推測します。
こうした浄書の仕事は今やアントニオがMacを使ってやっている訳ですが、制作手法は変わっても職人魂は同じなんだと思います。

fukyo.jpgサムライに扮した近藤等則がトランペットと刀を持っているジャケが冗談か本気か分かりませんが、このジャケの通りのサムライ・ジャズといった趣の内容になっています。
全編エレクトロニック・トランペットの無伴奏ソロ演奏のみで構成されていますが、虚無の空間に切り込んでいくような緊張感に満ちたフレーズの間の取り方は「和」の世界です。その音楽は、宛ら竹薮の中で孤独に尺八を吹いているかのようで、ノイズ的な奏法も多用していますが、これも多分に尺八的といえます。
ディレイを駆使する事によって、オーヴァーダブなしにポリフォニックな楽想も可能にしていますが、絶妙なバランス感覚で「間」が埋もれないように、うまく計算されています。

ジャズ(=即興演奏)と武士道の意外な近親性を強く感じさせる名作と言えると思いますが、そうした近親性を考えると、フリー・ジャズやジャンルを超えた即興演奏のシーンで何人かの日本人アーティストが海外からも高い評価を受けているのも納得できます。

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高橋悠治の旧譜が大量に再発されましたが、その中からバッハを電子楽器で演奏したものを紹介します。
一つ目は「クラヴィーア協奏曲集」。基本的にスタインウェイで弾いていますが、2つの協奏曲の第2楽章では電子ピアノ(フェンダーローズ)に換えての演奏となってます。不思議な事に、前後のアコースティック・ピアノで弾いている楽章と繋げて聴いてもほとんど違和感がありません。

二つ目は「ゴルトベルク変奏曲」。本編の方はアコースティック・ピアノですが、付録として収められた「14のカノンBWV1087」ではローランドのシンセサイザーによる演奏で、非人間的且つ暖かみをもったプログラミングが秀逸です。ほとんどが20秒〜40秒のごく短いカノンばかりですが、思わず繰り返し聴いてしまいます。

極め付けは「フーガの技法」をシンセサイザー(ムーグ、EMS)で演奏した「フーガの[電子]技法」です。これは、ふざけているのかと思いたくなるほどに、バッハの原曲を徹底的に解体してしまっています。極端なトレモロやヴィブラートをつけたり、オリジナルのピッチがほとんど分からないくらいの強烈なモジュレーションをかけたりと、いかにも「電子音」的なプログラミングを施している時点で原曲のフォルムがかなり崩れているのに、テンポはヨレヨレ(各声部の縦のラインが揃っていないところも数多くありますが、クリックトラックなどを使わずに多重録音を行ったのでしょう)、和声の整合性などお構いなしに一部の声部にディレイを掛ける事によってハーモニーもポリフォニーも極度に混濁している部分もあります。同じ声部でも曲の途中で音色がどんどん変化していくように構成していますが、何らかの統一的な規則性がある様子はなく、気まぐれに音色を変化させているように聞こえます。

バッハの意図したポリフォニーは無残なまでに破壊されていますが、上記の様々な音響操作によって、様々な音色の電子音によるポリフォニーが、バッハのフーガに寄生して奏でられる高橋悠治のオリジナル作品だと思って聴くのが正解ではないでしょうか。

バッハと電子音の相性は非常に良いですが、彼の音楽の持つ抽象性がそのような特性を持たせているのでしょう。
電子音との相性が良いクラシック音楽の作曲家でぱっと思いつくのはバッハ以外に後期ヴェーベルンくらいかな?などと思案していると、ルネサンス及びそれ以前のポリフォニー音楽はかなりの割合でOKではないか、ということに気付きました。
そういえば、大昔、マショーの「ノートルダム・ミサ曲」をMIDIに打ち込んで、2xリコーダー、2xフィードルという音色の設定にするとなかなか優雅かつ作品の隠れた魅力を再発見する結果になったことを思い出しました。

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