シュトックハウゼン《光の日曜日》上演レポート(その2)
第3場面《LICHT-BILDER 光=映像》は、その前の2つの場面が上演されたAホールの逆側のBホールで演奏されました。円形の特殊な客席配置だったAホールに対して、こちらはステージが客席前方にある通常のホールです。
オーケストラ、合唱といった大人数のアンサンブルの作品に続き、本作はテノール、トランペット、バセットホルン、フルートという4人のアンサンブルによる室内楽編成となります。こうした楽器編成の変化による効果は、全曲通して聴いてはじめて明らかになりますが、ここまでの2つの場面では客席いっぱいに広がっていた音響が、ここで一転し、せまい空間に凝縮されるような効果を生みます。
テノールとトランペット、バセットホルンとフルート、という二組のデュオが織りなす緊密なポリフォニーは一見地味なものの、音楽が耳に馴染んでくるにつれ、その驚異的な造形美がじわじわと体感できるようになります。本作は2005年にシュトックハウゼンが来日公演を行ったときにも演奏されましたが、その時よりもさらに音楽そのものの面白さを楽しむことができました。
二組のデュオはそれぞれ、一種の複雑なカノンを構成しますが、スコアに指定されている動きを伴うことにより、視覚的な面からもその構造が強調されます。オペラ形式の上演では、そこにさらに映像が加わりました。
この映像は、4人の演奏者の背後の巨大なスクリーンに映写されますが、今回のプロジェクトではその映像が3D上映されました。休憩時にホールを移動する際、会場スタッフの人から3Dメガネを配布される光景がオペラ上演で繰り広げられるのは、なんとも不思議な気分でした。
テノールによって歌われる歌詞は、短い神への賛美の言葉、そして神の創造物の名前の長大な羅列で構成されますが、ここで歌われた名前が立体映像で次々と現れる、という仕掛けになっています(時おり、映像がその前に立っている演奏者より前方に感じられるのは、音楽そのものとは関係ないものの、面白い体験でした)。このような臨場感あふれる3D上映を採用したことで、テノールが名前を発すると、魔法のようにその実物があらわれるかのような興味深い効果が生まれました。ただ、それがリアルなだけに、歌詞と映像の齟齬(様々な聖人の名前を歌っているのに、延々と仏像のCG映像が流れるetc.)は残念に感じられました。
そして、このBホールのステージ全面には水が張ってあって、長靴をはいた演奏者がその中で歌う演出になっていましたが、これもやはり「余計」と評価せざるをえませんでした。
「水」という要素は、《光の日曜日》のオペラの内容とも無関係ではないですし、視覚的にも美しいのですが、演奏者が常に何らかのジェスチャーを行いながら演奏するこの曲では、それに伴う水音が音楽の邪魔をしてしまう結果となります。トランペットとフルートに施されるリング変調の効果も聴きづらくなりますし、実際そうした配慮がなされていないことは、フェルマータで静止している部分、全員が休止している部分でも水音がかなり目立っていたことからも明らかでした。
特殊奏法による気息音などのノイズも音楽の重要な要素になっているのに、「水音」という、誤って音楽要素として認識されかねないものを無神経に付加することによって、音楽を破壊してしまったのは本当に残念でした。
さらに、何箇所かでは、スクリーンが舞台袖に引きこまれ(このノイズも気になりました)、そこから舞台後方で10名ほどのダンサーが水の中で踊る部分もありましたが、ここでの水音の大きさは相当なものになりましたし、演劇的な必然性も全く感じられない「見世物」的な効果にとどまっていました。
この作品の4人の演奏者のうち2人が初演時のメンバーと入れ替わっていることは、シュトックハウゼン演奏史においては、さりげなくも重要なポイントかもしれません。
なぜなら、入れ替わったメンバーは、シュトックハウゼンともっとも関わりの深いSuzanne StephensとKathinka Pasveerの二人だからです。この二人のかわりに今回ステージに立ったのは、その弟子の世代の二人ですが、来日公演で聴いた演奏と比べて遜色が無いどころか、今回の方が、むしろある種の余裕すら感じられたのが印象的でした。
テノールとトランペットの二人は初演と同じメンバー、当然、カティンカ、スージーの二人は自身の豊富な演奏体験をもとに徹底的なレッスンをつけているはずなので、そうした条件が良い結果に結びついたのかもしれませんが、「ファミリー・オペラ」などと揶揄されることの多かったシュトックハウゼン作品の演奏の様相が、一歩新しい方向へと進み始めた重要なポイントであると思います。
ちなみに、Kathinka Pasveerは音楽監督およびサウンド・プロジェクションを担当することによって、シュトックハウゼン本人がかつて行っていた立場を引き継いでいますが、Suzanne Stephensは表向きのクレジットはリブレットの英訳のみ、公演中は、一聴衆として作品を聴いているだけでした。合唱やオーケストラの出番も多い本上演では、ファミリー・オペラ的様相はほぼ消滅していると言えるでしょう。
演奏:
テノール:Hubert Mayer
トランペット:Marco Blaauw
フルート:Chloé L'abbé
バセットホルン:Fie Schouten
シンセサイザー:Benjamin Kobler
サウンド・プロジェクション:Kathinka Pasveer
その5につづく

