2009年7月アーカイブ

時として奇跡的な演奏が起こることもある本講習会の受講生コンサート、まちがいなくここ数年のベストが《祈り》の演奏でしょう。

近年はカティンカ・パスヴェーアとアラン・ルアフィの二人によって演じられることの多い本作品、今回は3人での演奏となりました。ロシア人とポーランド人の受講生、そして講師のアラン・ルアフィの3人です。

オーケストラの演奏と完全にリンクした様々な祈りのポーズのジェスチャーを演ずる本作品、初演時はアラン・ルアフィ一人で演じられていましたが、即興的な振り付けではなくきちんと「作曲」されていることを視覚的にはっきりさせるために、二人で演じられることがだんだん通例化していきました。

約20年前にはじめて3人のダンサーによってこの作品が演奏され、そのために特別な舞台装置が作られましたが、今回はその時以来初めての3人による演奏、巨大なその装置もその時以来初めて使用されることとなりました。

初演者のアラン・ルアフィは、初演のために3ヶ月前から小屋に籠って、毎日8時間をこえる超人的なリハーサルをこなし、以来30年以上この作品を演じ続けているベテラン(普段はあまりにもケッサクすぎるオジさんなのですが。。)、その彼の教えを受けた二人の受講生も、今回の演奏の「お許し」が出るまでに、一人は9年、もう一人は5年を費やしました。

何度か演奏の可能性があったものの直前で許可が下りず、苦い思いもした二人ですが(ロシア人の受講生はヴィザが降りずに講習会の参加自体を断念しなくてはならない年もありました)、ついに3人ヴァージョンという特別な形式で本番を迎えることができました。

IMG_0290.jpg

二人の生徒の動きには、ちょっとした仕草がものすごいパワーを感じさせる師アラン・ルアフィの境地に比べると、さすがに見劣りがする面も否めないものの、そうした欠点を補ってあまりある気迫が、演奏からありありと感じられました。

ここまでの感動は、何度も参加した本講習会の中でも一二を争うものでした。

もともと日本の銀行から委嘱されながらも、なぜか日本初演の実現していない、この作品、初演者アラン・ルアフィの体が自由に動く内に、日本での演奏を成し遂げて欲しいものです。
だそうです(ソース↓)
http://www.suntory.co.jp/culture/smf/summer/index.html

悩ましいのが、やはり自由席であること。

左右のオーケストラの幅が、作曲者の想定したものよりもかなり狭いので、オーケストラに囲まれる位置がベストかどうかは微妙ですが、当日は席取り合戦になること必至ですね。

上に紹介したサントリー音楽財団のページから、私も参加した昨秋の東大でのシンポジウムの様子を収録したN響機関誌「フィルハーモニー」の記事のリンクもあります。
今年も参加してきました。
ただし、スケジュールの都合で2週間以上にわたる講習会の後半のみでした。

前半にはKLANGの新作の演奏やPROZESSIONやZEITMASZEといった本講習会ではなかなか演奏されない作品の演奏もあったので、これらを聞けないのが残念でした。

私が参加した後半ではKLANG唯一の電子音楽、13時間目COSMIC PULSES(これは何度聴いても面白いです)やそこからの派生作品、14時間目HAVONA(バス独唱と電子音楽)、19時間目URANTIA(ソプラノ独唱と電子音楽)そして受講生コンサートでは20時間目EDENTIA(ソプラノ・サックスと電子音楽)も聴くことが出来ました。現時点ですでにこの3曲ともCDで聴くことができますが、やはり8チャンネルでぐるぐるとうごめく電子音を聴く方が圧倒的に面白いです。

後半は演奏者を一切必要としない電子音楽のコンサートが多く、一晩に出演する演奏者ゼロという日も多かったのが特徴です。作品はどれも面白いのですが、電子音楽ばかりが続くのも何だかなぁ、というのが正直な感想です。

ただし、儲け物だったのが、受講生コンサートの余った枠で上演された「ティアクライス」オーケストラ版の録音です。世界初演のリハと本番の録音から編集したステレオ録音ですが、4チャンネル使って再生することにより、天国から降り注ぐような音響を実現していました。

そうした中、生身の演奏者によるコンサートにはいくつかの圧倒的なハイライトがありました。

まずは、ピアノ・クラスの講師ベンヤミン・コブラーと打楽器クラスの講師スチュアート・ゲルバーによる《コンタクテ》が圧倒的でした。
この作品は受講生によるコンサートで演奏されることが多いのに(この二人も受講生であったときに、それぞれ別の年に演奏しています)、なぜか講師のコンサートでは滅多に演奏されず、今回は講師のコンサートとしてはほぼ10年ぶりの演奏となります。
今回サウンド・プロジェクションを担当したブライアン・ウォルフは、これまで、受講生コンサートでの音響操作をまかされることが多く、シュトックハウゼンのダメ出しが厳しすぎたせいか、「弱気」な仕上がりになることが少なくなかったのですが、今回は「強気」なアプローチで迫力も十分、かといって音色が粗雑になることも決してなく、生楽器と電子音の音色のつながりやバランスも入念にコントロールされた素晴らしい出来でした。
全く異なるふたりのキャラクターの対比も面白かったです。

IMG_0273.jpg
そして、《腹のなかの音楽》も約10年前に本講習会で演奏された演目、その時は受講生コンサートで演奏されましたが、同じアンサンブルが今回は、正式なコンサートの枠で出演しました。私にとっては実演初体験となるこの作品、音だけ聴いても、いまひとつその魅力が分かりずらかったのですが、実演に接して見方ががらっと変わりました。音楽的には《ティアクライス》から演奏者によって任意に選ばれた3つのメロディーがさまざまな金属打楽器によって演奏される(ただし極端に遅いテンポで、そして複数のメロディーが同時に)だけの極めてシンプルな構成ですが、それが巧みな舞台演出を伴うことによって俄然面白みを増します。

6人の打楽器奏者の機械仕掛けの人形のような動きは、マイムの専門家によってしっかりとトレーニングされ、それ自体だけですでに秀逸、その動きがもとのメロディーがかろうじて認識できるくらいの極端に遅いテンポで演奏され、そのオリジナルのメロディーが作品終盤でオルゴール(=自動演奏機械)によって「種明かし」される構想と連関している「しかけ」も巧みです。

ちなみに上の写真中央にぶらさがっているのが、鳥人間「ミロン」、3人の打楽器奏者がはじめは彼の体を棒で叩き(様々な鈴状の楽器が付いているので叩かれるたびに可愛らしい音をたてます)、最後にはハサミでお腹を引裂き、中からオルゴールを3つ取り出します。
この、現実離れしたメルヘンチックな展開はシュトックハウゼンの「子供」心を象徴しています。

この日だけなぜか、客席に小学生くらいの子供が沢山いましたが、おそらくシュトックハウゼン音楽財団から近くの子どもたちに招待状を出したのだと思います。
シュトックハウゼンの写真の入ったマグカップやTシャツ、自筆譜をあしらったマウスパッドにポストカードが買えるそうです。

こちら↓
Stockhausen Gift Catalog (.pdf)

発売元はシュトックハウゼン音楽財団ではなく、キュルテンの郵便局も入っている写真屋さんです。私もいくつか買って帰ろうと計画しています。
8月に東京で演奏されるシュトックハウゼンの《グルッペン》に関連して、ベルク協会の主催で以下のレクチャーが行われます。
(ベルク協会会員以外も入場可能だそうです)

題目 「シュトックハウゼン《グルッペン》の時間構造〜日本での再演を前に」
講師 清水穣(同志社大学教授)
期日 2009年7月19日(日)午後2時〜5時
会場 東京大学駒場キャンパス
 18号館1階メディアラボ2および18号館ホール
(井の頭線 駒場東大前下車 徒歩3分)
入場無料

「シュトックハウゼン音楽論集」の訳者でもある清水穣氏のレクチャーですので、内容の充実度は保証します。
残念ながら私はキュルテン滞在中につき欠席となります。
本日より、私も出演(といっても歌っているところを撮影されただけですが)している映画「或る音楽」が渋谷ユーロスペースにて上映されます。

「或る音楽」 2009年/カラー/HDCAM SR 5.1ch/約72分

出演
高木正勝 (piano, vocal) 田口晴香 (vocal) ヤドランカ (vocal, saz) 松平敬 (vocal) 熊澤洋子 (violin)  金子鉄心 (uilleann pipes, sax) ヤマカミヒトミ (flute, sax) OLAibi (percussion) 佐藤直子 (percussion)  沢田穣治 (contrabass)

音楽&舞台映像 高木正勝
監督 友久陽志

高木氏の映像作品「Homiĉevalo」「NIHITI」も同時上演されます。

本日4日には監督・友久陽志氏および高木正勝氏の舞台挨拶、15日には中沢新一氏と高木正勝氏のトークも予定されているそうです。

その他名古屋シネマテークで7/18〜24、トロントで8/21〜23、9〜10月には山形、仙台、福島、京都、神戸で上映予定だそうです。

このプロジェクトを収めたCD「Tai Rei Tei Rio」もすでに発売されていますが、詳細な情報は以下をご覧下さい。

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