Keith Jarrett: up for it

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キースのスタンダーズ・トリオの最新盤にして結成20周年記念盤。
このトリオに関しては特に近年マンネリだなんだという批判もちらほら聞こえてきますが、そういう人は音楽を表面的なスタイルでしか捉えられてない人だと個人的に思います。

まず、20年間全く同じメンバーで継続するということが驚異的です。これは少しでも自分自身で音楽を演奏した事がある人ならすぐ分かる事です。同じメンバーで数年やっていたら大体行き詰まってしまうものです。

そして、スタンダード作品のみを演奏するという基本コンセプト。
これは一見安易な企画のようですが、このスタイルだけで20年やり通すというのは相当な精神力と音楽的な創造性が必要です。
ピアノ・トリオというありふれた編成で、手垢にまみれたスタンダード曲を演奏し続けようとすると、すぐにゲスト奏者を呼んだり、プログラミングに企画性を持たせるとか、ものすごく独自な解釈で演奏するとかなどといった誘惑がすぐ出てきますが、キースはこのどの罠にも陥っていません。
キースのこのトリオをマンネリだという人は知らず知らずこの辺の罠に陥っている訳です。
どちらかというと、こうした誘惑は、どんどん新譜を買わせようとする「商売上の」戦略に見事にはまっているといえるでしょう。

繰り広げられる演奏はキースの音楽としか言い様のないものオリジナルなものですが、アレンジは独創的であっても決して奇をてらったものではないし、アドリブも原曲のコード進行に極めて忠実なものです。
しかし、キースの弾き出すラインはうねうねと曲がりくねり、フリージャズでしか成し得なかったような自由奔放なメロディーラインをスタンダードのコードに忠実に描き出す、という極めて高度な段階に達しているのです。

この最新作up for itでは「枯葉」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」などの超有名曲の割合がかなり高いですがそれにも関わらず演奏内容は極めて挑戦的です。
こうした超有名曲を並べてみたこと自体が挑戦的であると言ってもいいかもしれません。
フレーズも前作までと比べて、より濃厚になって来た印象を受けますし、その「濃さ」はピアノから紡ぎ出されるフレーズがトランペットやサックスで奏でられるようにしばしば錯覚してしまうところでも確認できます。

70年台の活動を考えればすぐ分かる通り、彼は「変なこと」をやろうと思えばいつでもできるのです。
でもそうした誘惑を断ち切り、「ごく普通な」ことを非常に高度なレベルで行い、その本質を探ってみると、実はものすごく「変な」ことを行っているのです。

このトリオも遂にフリージャズ的なアプローにも手を染め始めましたが、彼らにとってはむしろこちらの方が楽な筈です。しかし、「フリージャズ」というクリシェと不自由に染まってしまう危険性を感じ取っていた彼らはこうした「持ち駒」を最近まで取っておいたのでしょう。

この偉大なトリオにとってはスタンダードを高度な内容で演奏し続ける、という一見安易なことが実は最も挑戦的なことなんだと思います。
このまま30周年を狙うつもりで頑張って欲しいですね。

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