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松平頼暁「It's gonna be a hardcore!」リズムの練習
- 作品の概要
- この作品はもともと1980年にソプラノとピアノのために作曲されたが、私が「秋吉台の夏2005」でのコンサートで演奏するためにバリトンとピアノのために改作された。
4分の4拍子(テンポは4分音符=80)の作品であるが、バリトン・パートはこの1小節の4拍に5つの音符を入れる4拍5連符のリズムでIt's gonna be a hardcoreという歌詞のみを終始繰り返す。ひとつのフレーズが5連音符6つ分、言い換えると4+4/5拍分の周期を持っているためリズム的なアンサンブルは極めて複雑なものとなる。この演奏の困難さはバリトン歌手が歌いながら手拍子を打つことによってさらに増幅される。ちなみにピアノ・パートは3連音符と8分音符の2つのリズム層から構成されている。
何度か音楽が突然中断しバリトン歌手が短い台詞をしゃべる部分があるが、もし2人のリズムがずれていた場合その場所でアンサンブルの乱れが聴衆に「ばれて」しまう心憎い仕掛けになっている。
以下の文章は、この複雑なリズムを私がいかに攻略していったかの練習の記録である。
- 練習法
-
- 1. 声楽パートのみの練習
- メトロノームをテンポ80、4拍子に設定し、それに合わせて1小節に5拍(4拍5連符)を入れられるように練習する。5音節の単語、例えば「いけぶくろ」などと言いながら練習すると連符のどの部分を演奏しているのか把握しやすい。
スコアにも注記されているとおり、テンポ80の4拍5連音符はテンポ100に等しいのでテンポ100の5拍子のリズムの感覚を4連符抜きで体得することも重要。
5連符のそれぞれの音符の位置は以下の通り。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5
|
| 1拍目 | 1+4/5拍目 | 2+3/5拍目 | 3+2/5拍目 | 4+1/5拍目 |
2つめの音は2拍目の少し前、5つめの音は4拍目のすぐ後ということを目安にして、4拍を5つに分けるという意識よりも80のテンポの4拍子にのせて100のテンポの5拍子を同時に演奏するという意識を持った方がリズムが揺れにくい。
4拍5連のリズムをマスターしたら、次は歌詞のリズム読みの練習する(もちろんメトロノームと一緒に)。この曲のリズムは一部の例外を除いてすべて同一のリズムの繰り返しなので(音程構造はどんどん変化している)、冒頭からのいくつかのサイクルのみを練習すればよい。歌詞はIt's gon-na be a hard-coreという6つのシラブルからなり5連音符6つ分に収まるようにリズム付けをされ、これが延々と繰り返される。従って始めのサイクルは1拍目丁度から始まり、2つ目のサイクルは5連符の2つ目から、3つ目のサイクルは5連符の3つ目、というようにサイクルの開始地点がどんどんずれていき6つ目のサイクルで開始地点が1拍目丁度に戻り、以下再び同じようにずれていく。この5つのサイクルを歌詞のリズム読みで演奏できるようになればほとんど全ての部分のリズムに対応できる、ということになる。
5連符の中でさらに2拍3連が含まれていて、特にそこでリズムが狂いやすいので特にその点に注意する。
このリズム読みが正確にできることはこの作品の演奏の「肝」なので音程や手拍子をつけて練習する段階でも折りに触れてこの練習に立ち返る。
次の段階は音程と手拍子を付け楽譜通りに演奏する(ここでももちろんメトロノームを使用する)。同じメロディー・パターン(と拍手のリズム・パターン)がしばらく続き、ある箇所で変化していく構成になっているが、ピアノ・パートも同じ箇所でパターンが変化していくことをチェックしておく。
特に手拍子が入ることによりただでさえ複雑なリズムの演奏がより困難になるのでそれぞれのパターンの音程、リズム構造が完全に体に染み込むように何度もひたすら練習する。
- 2. ピアノとのアンサンブル
- ピアノ・パートは上声部が1拍3連、下声部が8分音符を基準とするリズムになっているので、声楽とピアノ・パートがリズム的に一致するのは1拍目のみ。ピアノのパートも1拍目からフレーズが始まることは少ないので、それとは無関係に1拍目丁度で目立つ低音や和音を演奏する場所、右手の3連符のピッチやパターンの変化する場所をマークしておき、そこをアンサンブル上の「集合地点」にする。
一般的な声楽作品でのピアノ・パートは歌手のテンポの変化に寄り添うように演奏することが多いが、この作品の機械的に構成されたリズムの特性上、そうした演奏は相応しくないので、常に歌手がピアノのリズムに合わせることが重要である。
もし声楽とピアノのリズムがずれてしまった場合は、声楽パートのテンポを(ライヒの「ドラミング」のように)ほんのわずか上げるか下げるかしてピアノパートと同期するまで「調節」を行う。
完全にリズムがずれてしまわないようにピアノ・パートの動向を気にすることは重要であるがピアノの奏している2連符や3連符のリズムに同化してしまわないように気を付けなければならないのは言うまでもないことである。この現象を避けるために(少々見苦しいが)指揮をするように腕などを5連符のリズムで動かしながら歌うのは手拍子のタイミングを整える意味もあって有効である。
場所によってはピアニストに1拍目の入りを首を振ることによって視覚的に示してもらうことは同期の大きな助けになるかもしれない。
- 補足
- 複雑な連符(特に大きな音価を持つもの)を演奏することは決して容易ではないが、シュトックハウゼンの「ピアノ曲I」の注意書きで示唆されているように、連符をテンポの変化として読み替えることは非常に有効である。このためには「絶対音感」ならぬ「絶対テンポ感」というものが必要になってくるが、これはシュトックハウゼンが「グルッペン」以降しばしば用いている「テンポの半音階」を学習することでこのテンポ感の習得に役立てることができる。実際、私がシュトックハウゼンのテンポの半音階を用いた作品「Tierkreis」「7 Lieder der Tage」「Rosa Mystica(1小節に3回テンポが変わる)」を演奏した経験がこの難曲の演奏に非常に役立ったことを付記しておきたい。 >>もどる
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