クセナキス《オレステイア》におけるバリトン独唱の書法

クセナキスの《オレステイア》の初稿は1966年に作曲されましたが、それから20年以上たってバリトン独唱をともなう2つの楽章、《カッサンドラ》(1987)と《アテナ女神》(1992)が挿入されました。

どちらもファルセット唱法が作品の大半を占めていることと、打楽器ソロとセットになっている点で共通していますが、異なる点も多いので、その差異を以下にまとめてみました。

楽器編成
・カッサンドラ:バリトン、打楽器、プサルテリオン(バリトン奏者が演奏可)
・アテナ女神:バリトン、打楽器、10人の室内アンサンブル

唱法
・カッサンドラ:カッサンドラ役(ファルセット)とコロスの長(通常のバリトンの唱法)の一人二役
・アテナ女神:ファルセットとバリトンの音域を頻繁に交代する唱法によって、アテナ女神の超人的な性格(両性具有?)を表現する。

メロディー・ライン
・カッサンドラ:終始、うねうねとした曲線で記譜されたグリッサンド奏法
・アテナ女神:16分音符(♪=48)を中心とした格子状のリズム。ピッチは確定されている。

打楽器との関係
・カッサンドラ:バリトンの歌唱に常に寄り添う。ソロ・パートは32分音符、歌手との二重奏部分は16分音符を中心とするパルス的リズム
・アテナ女神:バリトン独唱が休止しているときのみ、打楽器ソロが演奏。3~5連符を細かく使い分け、パルスが常に加速、減速するような効果を狙う。

以下の譜例は《アテナ女神》のバリトン・パートのピッチ構造を抽出したものです(数字は小節番号、クリックで拡大)。特に作品前半で頻出する、同音の繰り返しは省略しています。
大譜表で書いていますがト音記号の部分がファルセット、ヘ音記号の部分が通常のバリトンの音域となります。瞬時に2オクターヴ跳躍するのは当たり前のように出てきて、作品後半ではほとんど3オクターヴ跳躍する箇所すら出てきます。

この譜例を見ると、使用音を極端に限定した冒頭から、だんだんピッチが増えていく様子が視覚的に分かるかと思います。

アテナ・メロディー分析

8月31日のサントリーホールでの《オレステイア》公演、東京コンサーツ扱い分は完売とのことで、他の扱いでも残席が少なくなっているようです。貴重な機会ですので、興味のある方はお早めのお申し込みをお薦めします!

ちなみに以下のリンクは上の譜例をプレイバックしてみたものです。
もはやクセナキスとは関係ありませんが、遊びで作ってみた割に面白かったので、純粋に楽しんでもらえればと思います。
《アテナ女神》は10分近くあるので、その構造を20分の1に圧縮した、と思って聴いてみても面白いかもしれません。